メッセージが強くて会場をしらけさせた4人組
反対に盛り下がったのは、ユーチューブから人気が出た4人の演奏集団「ピアノ・ガイズ」の『オーケー』だ。
「……どれだけうまくいかないっていう悪い知らせがあっても、彼らがなんといおうとも、彼らがなんといおうとも」「きっとオーケーになるさ、きっとオーケーになるさ、きっとオーケーになるさ」。
なぜ盛り上がらなかったのか。メインボーカルは歌いだす前に、(新大統領に対して反対デモなどがおこっているけど)「みんなが互いの違いをいったん脇におくときだ」と融和のメッセージを発していた。これで熱狂の場がしらけた。
さらに会場にいたミネソタ州の人に聞いてみると、こんな声が拾えた。
「トランプはすでにオーケー以上! 俺たちにとって最高の大統領なんだ。これからオーケーになるとか、何をあいつは上から目線で歌ってんだ」(ミネソタ州からの参加者)。
少ししらけていた会場は、トビー・キースがモニターに映し出されると状況が一転した。トリを飾るカントリーミュージック界の大御所だ。その登場に場は大きく沸いたのだ。歌うは代表曲『アメリカン・ソルジャー』。家族を支える父親がある日突然、戦争に呼び出される予備役兵の悲哀や勇敢さを描いた曲だ。
最高潮に達したのは、「自由はただじゃない」「俺はアメリカの戦士だ」「…誇りをもって立場を表明する」「自由が危険にさらされたとき、俺はいつも正しいことをしようとする」の歌詞のところだ。
なぜか。ミシガン州からやってきた企業経営者(40代)の男性がこう解説してくれた。
「左派のオバマ政権の下、ぼくたちアメリカ人は自由を日々、失ってきた。そこで一人立ち上がってくれたのがトランプだ。とくに左派が多数派の地域にいると、彼を支持することの代償は大きい。それでも男には、立ち上がらないといけないときがあるってことさ」
各州でトランプとともに長い選挙戦を戦ってきた支持者の心意気と歌詞がオーバーラップしていたのだ。
大トリにアカデミー賞俳優が登場
最後に大トリの登場である。トランプがモニターに映し出されると、「トランプ! トランプ!トランプ!」の大声援がこだまする。
演説を前に、俳優のジョン・ヴォイト(アカデミー主演男優賞受賞)がトランプを紹介する。ハリウッドでは数少ない著名なトランプ支持者の1人だ。
「(立候補した)彼がただ望んだのは『アメリカを再び偉大に!』することだけだった。(大富豪である)彼はぜんぜんこの職を必要としていなかったけれど、神がわれわれの祈りを叶えてくれたのだ。そう、われわれはみな歴史が作られる真っ只中にいる。ここでわれわれと共にいるリンカーン大統領はきっと笑みを浮かべていることだろう。アメリカはこの正直で善良な人物によって、安全な国となることを知っているからだ。彼は信仰や人種の違いにかかわりなく、すべてのアメリカ人のために働いてくれるだろう」
ひとことひとことに聞き入るトランプファンたち―――。自分たちが歴史の1ページと位置付けられ、興奮のるつぼと化した。
その瞬間、マイクがトランプに渡された。トレードマークの赤ネクタイではなく、青ネクタイをしめている。厳かに楽隊や歌手に謝辞を述べたのち、会場にいるファンへのメッセージを述べ始めた(抜粋)。
「この長い旅(選挙戦開始から就任まで)は18カ月前にはじまった。それは、俺にとっても少しは大事なことだったけれど、君たちにとってもっと重要な旅だった。俺はただ君たちのメッセンジャーだったんだ」
主役は会場の君たちだ、と自分は一歩身をひいたトランプ流の演説がはじまった。
「俺たちはうんざりしていた。俺はそんな君たちがすきだ(会場笑)」と続け、会場は和むと同時に、一瞬にして、トランプと観衆は一体となった。
「俺たちが俺たちのカントリーを統一する。俺たちのフレーズ、みんな知っているよな、みんなの半分がそのフレーズの入った帽子をかぶっているし。そう『アメリカを再び偉大にする!』だ。ただし、俺たちはすべての人々、みんなのためにアメリカを再び偉大にするんだ。全米のみんなのためだ。俺たちは特別な仕事をこれからしていくんだ」
「だからまた明日、会おう。俺は正直いって気にしていない。明日晴れようが、狂ったように雨がふろうが(会場大笑い)。俺にとってはどっちだっていい。でも俺の直感では晴れるよ(会場拍手)」「花火を楽しんで帰れよ!」
そして就任式は雨の日となったのだった。
写真=浅川芳裕