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朝ドラ「なつぞら」演劇部編 広瀬すずを支える“俳優のバイブル”とは?

鴻上尚史が解説する「スタニスラフスキー・システム」

2019/04/22

source : 週刊文春デジタル

genre : エンタメ, テレビ・ラジオ, 芸能

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 その後、短い時期、《静かな演劇》という傾向が注目されたこともありましたが、ずっと、「正しい発声とは?」と「スタニスラフスキー・システム」は無視されつづけてきて、現在にいたっている、と僕は思っています。

 この状況はどうしてもおかしいと考えて、『発声と身体のレッスン』(白水社)という本を書きました。まず「正しい発声とは?」ということを見直すように提案したのです。

 幸いなことに、この本は広く受け入れられ、発売以来、十年近くたっても毎年版を重ねています。

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 そして、今回、もうひとつ無視してはいけなかったもの、「スタニスラフスキー・システム」をベースにした演技技術の本を出そうと思ったのです。

スタニスラフスキー・システムは「演技の基本」

〔ちょっと専門的な言い方をします。難しいようなら飛ばしてもらってかまいません。

 スタニスラフスキー・システム以外の演技訓練法は、他にもたくさんあります。《新劇》でも、ブレヒトの俳優トレーニングや異化効果をスタニスラフスキー・システム以上に大切にする流れがありました。

 フランスでは、ベラレーヌ・システムが有名ですし、アメリカではマイズナーやアドラーなど訓練方法はいくつもあります。

 スタニスラフスキー・システムを含め、どのシステムにも、長所短所があると僕は思っています。この本がスタニスラフスキー・システムの主に後期の教え方を採用したのは、「基本的な演技術」という目的のためで、他の訓練方法がスタニスラフスキー・システムより劣っているとかダメだということでは、もちろんありません。〕

 小劇場出身と言われる鴻上が、スタニスラフスキー・システムをベースに演技訓練方法を説明するということに驚いたり、疑問を持つ人もいると思います。

 厳密な意味では、僕の志向する演技はスタニスラフスキー・システムより、ブレヒトに近いものです。ですが、俳優にまず必要なのは、特殊な技術ではなく、スタニスラフスキー・システムによって獲得できる、きわめて広範囲に応用の効く基本的な演技術だと僕は考えています。

(鴻上尚史著「演技と演出のレッスン」白水社「はじめに」より抜粋)

こうかみ・しょうじ/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。

朝ドラ「なつぞら」演劇部編 広瀬すずを支える“俳優のバイブル”とは?

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