広瀬すず主演のNHK連続テレビ小説「なつぞら」。物語は第4週に突入し、主人公の奥原なつは演劇コンクールに向けて演劇部顧問の倉田先生(柄本佑)の下で仲間と練習を重ねていく。なつが演劇部に入るきっかけとなったのが、同級生から手渡された1冊の本「俳優修業」だった。

実在する世界的な名著

スタニスラフスキー「俳優修業」 ©NHK「なつぞら」より

 実はこの「俳優修業」、 演劇メソッドについて書かれた実在する世界的な名著だ。著者はロシアの俳優・演出家のコンスタンチン・スタニスラフスキー。彼の名前にちなみ、この演劇メソッドは「スタニスラフスキー・システム」と呼ばれている。1936年に出版された「俳優修業」は、80年以上経った今もなお世界中の役者に愛読されている。

 演技の訓練方法はさまざまだが、スタニスラフスキー・システムを「演技の基本」と推薦するのが日本の劇作家・演出家の鴻上尚史氏。著書「演技と演出のレッスン(白水社)」で鴻上氏はスタニスラフスキー・システムについて解説している。その「はじめに」の一部を紹介する。

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演劇部の顧問・倉田先生(柄本佑)となつ(広瀬すず) ©NHK

世界で初めて演技の秘密を解明

 日本の演技の歴史をご存知でしょうか?

 明治末期、西洋の演劇の影響によって、歌舞伎や能など伝統的な演劇ではなく、《新劇》と呼ばれるジャンルの演劇が始まりました。

 現在、僕たちが知っているタイプの演技の始まりです。

 第二次世界大戦後も、1970年前後の《アングラ演劇》が盛んになるまで、日本の現代演劇といえば、《新劇》でした。今も「文学座」「俳優座」「青年座」などが《新劇》に分類されます。

 《新劇》では、スタニスラフスキー・システムという演技の訓練方法が採用されていました。スタニスラフスキー(1863-1938)とは、ロシアの俳優であり、演出家の名前です。彼は、世界で初めて、演技の秘密を解明し、演技へのアプローチを科学的に体系化した人と言われています。それまでは、演技はセンスや閃きの結果と思われるか、または、見せ物としてどう観客にアピールするか、という視点でしか考えられていなかったのです。