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取材陣が1000人! 元宮内庁報道担当が明かす 昭和から平成「代替わり」の瞬間――新・令和の時代

2019/04/29
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生前退位のメリット

 今回の今上陛下の「おことば」を受けて、生前退位について、法整備も含めて国民全体での本格的な議論が深まっています。実際に生前退位を認めるとなると、葬儀にまつわる前例は一度崩れることになり、また新たな検討が必要となります。

 しかし、私はいくつかの面で、生前退位によるメリットも大きいと思うのです。

 明治以降、終身在位を天皇制の根幹としていたため、崩御と即位は必ずセットとなっていました。天皇陛下のお言葉にもありましたが、「喪儀に関連する行事」、すなわち悲しみ、悼みの行事と「新時代に関わる諸行事」、明るい祝いの行事が「同時に進行」していたわけです。その板挟みに、国民も皇室も苛(さいな)まれる。生前退位にはそれを避けることができるというメリットがあります。

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昭和天皇の大喪の礼 ©文藝春秋

 より国民目線でいえば、元号の問題があります。現行の元号法は、政令で定める、御代替わりの際に変更する、この二項のみです。天皇の崩御、つまり新天皇の即位に合わせて改めるということしか書かれておらず、具体的にいつから変えるかは明記されていません。大正から昭和の場合は即日施行でしたから、大正15年12月25日と昭和元年12月25日は、両方存在しました。昭和から平成の場合は、翌日からの施行でした。

 元号は、国民全員にかかわる問題です。身近なところでは、カレンダーや手帳。昭和64年と刷り込まれたものを使っていた人も少なくないでしょう。

 生前退位が認められれば、新しい元号は人為的に決めることができます。たとえば改元の日を1月1日とすることも可能です。特に役所関係は大きなメリットがあると思います。

©iStock.com

 その反面、まだまだ論じるべき課題も多い。たとえば皇位継承権者には辞退する権利が与えられるのか、という問題もそのひとつでしょう。先日薨去(こうきょ)された三笠宮殿下は、100歳を超えても皇位継承権をお持ちでした。天皇陛下が高齢を理由に退位されるとき、それよりも年齢が上の皇位継承権者はどうなるのか。これは極端なレアケースに思われるかもしれませんが、つまり、皇位継承権も含む皇室のありかたすべてが、終身在位を前提に作られている。したがって生前退位を検討する場合には、天皇のみならず皇室全体がどのような影響を受けるかを考える必要があるのです。小手先の特措法では、より多岐にわたる問題が噴出する恐れがあります。

 それだけ終身在位から生前退位へという転換は、近代皇室のありかたそのものに関わるものです。それを実現しようとするなら、皇室典範の改正という抜本的な改革なしには難しいのではないでしょうか。