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「既読」が生まれたきっかけ

――初期にはLINEユーザー同士のトラブルや、青少年問題として扱われたりとネガティブな視線もありましたよね。私も使うのをためらっていた記憶があります(笑)。キャリアのショートメールやツイッターのDMと何が違うのかが今ひとつわからなかったというのもありました。

 それは僕もありました。何が新しいのか、説明だけではよくわからないですよね。最近はやっている「Snapchat」なんかも、何がおもしろいのかなんて使ってみないとわからないし、まわりに使っている人がいないと使いようがない(笑)。2、3人使っている人がいるだけだと、使い始めるきっかけにはならないんですね。圧倒的に多くの人が使い始めて、はじめて意味をもつ。

 

 LINEの場合はまずLINEの社員とその家族に使ってもらいました。それがベースです。そこから飲み屋で会った人とか、店長に頼み込んで使ってもらう。わざわざLINEで予約を入れたり、「今日のおすすめは?」とか尋ねたり、そんなことを地道にやりました。メールとの違いを示すのも、やっぱり使ってもらうしかないんです。

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 プロモーション戦略としては、無料通話サービスが大きかったですね。みんなそれほどスマホで電話するわけではないんですが、電話がタダというインパクトは誰にでも伝わります。無料というのはやっぱりわかりやすいんですよね。

――「既読」というアイデアはどこから? あれも使い始める上での恐怖の源泉でした(笑)。

 それも震災時の安否確認からです。たとえば1日2回の定時連絡をルールとしても、非常時にはその余裕がない。でも安否確認は「見た」というサインがあれば十分なんです。問題が発生していれば何か書き込むわけですから。そこから「既読」機能が生まれました。

――それが今や月に6400万人もの人が利用する巨大サービスに。LINEの最終的な目標はどこにあったのですか。

 今は1人のユーザーでしかありませんが、世界一のメッセージングアプリになること以外に目標はありませんでした。利用者が多いこと以外に重要な指標はありません。おそらく今は世界一については諦めて、収益性を強化しようとしているのだと思いますが。

 

――「LINEはメディアをやらない」と発言されたことがありましたが、その真意は?

 キュレーションメディアの問題で編集権の有無が取り沙汰されましたが、メディアとプラットフォームには根本的な違いがあって、プラットフォームは自ら情報の順位付けはせず、違法性がない限りはユーザーが求めているものを優先して出す、これが基本なんです。道を作ってそこに人や車が通れば家も店もでき、街もできていくだろうけど、作るのはあくまでも道であって街ではないし、「こういう街にしたい」という意思も持たない、それがプラットフォームなんですね。

――LINEにいたままではC CHANNELはできないというのは、そもそも根本にある考え方の違いもあるんですね。

 そうですね。20代の頃に一緒に働いた日本テレビ時代の同僚とか、広告業界の仲間たちとは定期的に集まっていたのですが、みんな現在のメディアに閉塞感を持っていて、「一緒に変えよう」という話で盛り上がっていたのも、メディアをやろうと思ったきっかけでしたね。90年代はまだテレビが元気で、やんちゃな人も多かったんです。今は世間の視線が厳しくて、犯罪ドラマでも犯人がシートベルトをしていたり、取調室で誰もタバコを吸わなかったりしていますよね。入社試験を受ける人も銀行とテレビ局を両方志望していたりとか、作り手も変わってしまっています。

 視聴率を求めると若い人向けには作れなくなっている。すこし前まで深夜番組が若い人向けに実験をする場でしたが、今はネットに移行してしまっているので、テレビが時代をリードすることが難しくなっています。