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メットライフドーム芝生席名物 “ミラクルゲームニキ”とは何者か

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/05/21
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外崎以外にも「ネタ」はたくさん

 ちなみに井本さんは外崎を特別推しているわけではない。井本さん自身は「ネタ」と言い、面白そうな登場曲があれば踊り、叫んでいる。

 外崎以外にも「ネタ」はたくさんあり、代表作は2012年から2年間在籍したエステバン・ヘルマンが打席に入る際の「バンバンババババエステバン!」。どれくらい有名かと言うと、「ヤフー知恵袋」に「『バンバン、ババババ、エステバン!』と言われている方は、どの球場にもいらっしゃるのでしょうか?」と投稿されたほどだ。

 すでに6年前の質問だが、井本さん自身によると、「遠征はマリンに限らず、札幌、福岡、地方と結構行きます。メットライフドームには基本、土日休みにいる感じです」。

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 井本さんの「ネタ」は登場曲だけでなく、「メンバー交換表」もファンに知られている。プレーボールの少し前、ホームベース付近で両チームの監督同士がメンバー表を交換する際、「めーんばーひょー!」と叫ぶものだ。

「違う人だと思われているかもしれないけど、踊っている人と、メンバー交換表の人は一緒です。やり始めて10年くらいになりますね」

 2011年シーズンまで、メンバー表交換は試合開始の30分ほど前に行われていた。当初は井本さんの友人が「イェーイ、メンバー表!」と叫んだ後、井本さんが「ナイス、メンバー表!」とかぶせたのが始まりだ。プレーボールまでやることがなく、「声慣らしだと思ってやっていた」。

 それが2012年、試合開始5分前にメンバー表交換が行われるように変わり、「引くに引けなくなった(苦笑)」。今さらやめるわけに行かないと続けて8年、33歳になった井本さんは衰えを感じているという。カードの2、3戦目になると、「めーんばーひょー!」と叫ぶ声が枯れるようになってきたのだ。

「声の出し方がだんだん下手になっています。30代になってくると、体力的に落ちるんだなと(苦笑)」

ミラクルゲームニキはなぜ踊るのか

 たとえ周りから奇異な目で見られても、好きなように踊り、叫ぶ井本さん。誰に頼まれたわけでもない中、そうするのはもちろん理由がある。

「基本、ちゃんと応援しています。でも登場曲が流れているときって間があって、そこは自由だから何かいろいろと小ネタをはさみたいという、よくわからない欲がありまして。昨日(5月3日の日本ハム戦)とか3対10で、正直言ってクソつまらない試合だったじゃないですか。クソつまらない試合で、クソつまらないまま帰ってもしょうがない。なんかそういうことをやったら面白いかな、というところだったりしますね」

 ファンにとって、レフトスタンドは自由な表現の場だ。対して球団としてはコアファンだけでなく、初めて来た人も楽しめる球場でありたいという狙いが外野席の指定化にあるという。レフトスタンド名物のゲーフラの大きさが「70センチ×70センチ」と規定されたことも含め、応援に関する球団の様々な施策は賛否両論尽きないだろうが、ファンと一緒に求めていくべき理想は、コアファンとライトファンの共存共栄だろう。

 もちろん「言うは易く行うは難し」であり、多くのスポーツチームが試行錯誤している。誰より球場観戦を楽しんでいる立場として、井本さんはこう話した。

「まず、楽しく帰りましょうということですね。あくまでメインは野球だと(笑)。僕も野球を見に来ているからこそ、ずっと何回も来ている。それだけは忘れないでほしいと思いますね」 

 飲んで食べて音楽フェス的にイベントとして満喫するもよし。跳んで叫んで民族大移動するもよし。井本さんのように「球場ではノンアルコールで」とストイックに応援するもよし。

 いずれにせよ、せっかく球場に来たなら(たとえライオンズ投手陣が炎上しようとも)自分の心地いいスタイルで存分に楽しんで帰ってほしいというのが、熟練者の観戦極意だ。

(取材協力:も)

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