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「このままじゃ終わる」 プロ4年目で初勝利の西武・本田圭佑はメンタルの問題をどう克服したのか

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/05/03

 開幕から1ヶ月が経った。その間、鈴木将平選手、戸川大輔選手、廖任磊投手、山野辺翔選手のデビュー、佐藤龍世選手の初出場、初安打、本田圭佑投手の初勝利、愛斗選手の初安打など、新芽たちが次々と息吹き、チームに新風をもたらせた。中でも、非常に大きな収穫となっているのが、本田投手の台頭だ。

 始動当初に開幕ローテーションとして計算していた投手のうち、榎田大樹投手、内海哲也投手が故障。さらに、キャンプ、オープン戦と着々と評価を上げたルーキー松本航投手が肺炎のため療養と、3人が離脱する緊急事態となった。そこで、本田投手に白羽の矢が立った。開幕メンバーからは外れていたものの、第6戦目(4月4日vs千葉ロッテ戦)の先発に抜擢されると、6回を5安打、2本塁打、4失点。打線の援護にも恵まれ、4年目でプロ初勝利を飾った。

4年目でプロ初勝利を飾った本田圭佑

強い危機感を持って迎えたシーズン

“1勝”まで、実に長い道のりだった。

 1年目から2試合(うち先発1試合)、5試合(同1試合)、1試合と、過去3シーズンも毎年一軍での登板機会をもらってきたが、いずれも期待に応えることができず。特に昨季は、手応えを感じた中での一軍挑戦だったが、8月1日のソフトバンク戦で2番手として登板し、2回1/3を7安打、2本塁打、6失点と散々な結果に終わり、翌日、二軍へと降格した。

 ファームへ落ちると、ピンチこそチャンスとばかり、潮崎哲也二軍監督(当時)に指導を仰ぎ、フォームの改善に時間を費やした。そのフォームを完成させるために、トレーナーにも協力してもらい、身体の使い方も徹底的に研究。甲斐あって、「『これなのか』という自分の感覚」が見つかると、秋に行われたフェニックスリーグ、秋季キャンプでは過去にないほどの手応えをつかんだ。さらに、その後参加した台湾での『アジアウインターベースボールリーグ』でも、実戦を行う中でその感覚を継続できたことで、より一層の自信を持って今春季キャンプに挑んでいた。

 キャンプでも、監督、コーチ、首脳陣の評価は上々だった。だが、実は、本田投手は毎年キャンプでのアピールには成功しているのである。自分でも、「ここ2年間ぐらい一軍キャンプに連れて行ってもらって、最初は自分の中でも良いボールがいくのですが、どんどん実戦に近づくにつれて疲れてきて、自分の思っているボールが投げられなくなって、一軍に残れないというのを繰り返している」と、自覚している。だからこそ、「今年は、最初だけではなくて、実戦になってからのアピールが必要。そこにピークを持っていけるように」と、意識を高く持っていた。しかし、2月23日の千葉ロッテとの練習試合で2回、四球5と自滅し、「パニック状態だった」。結局、同じ結果を繰り返した。

「このままじゃ終わる」。

 もともと、「今年がラストチャンス」だと強い危機感を持って迎えたシーズンだが、さらに窮地に追い込まれた。「何かを変えないと」。やるべきことはすぐに見つかった。「今までも、一軍で投げてダメだった時などは、『やっぱりメンタルが課題かなぁ』と思って、本を読むぐらいのことはありました。でも、そうやって直後は勉強しても、少し経つと、やはり技術練習に頭がいってしまい、『いや、メンタルじゃない。技術に自信が持てないから』だと、逃げ道を作っていました。ただ、今回は、練習やブルペンで良いボールは投げられているのに、試合になったらダメという、明らかにメンタル。精神的な問題だと痛感させられました」。

呼吸に意識を 星コーチからもらったヒント

 そんな時、ヒントをくれたのが、同じ仙台出身であり、大学の先輩でもある星孝典二軍育成コーチだった。雑談の中から「試合でどうしても上手くいかない」という話に及ぶと、「うちに、現役時代に参考にしていたメンタル系の本と中学生向けのDVDがあるけど、興味ある?」「めっちゃあります!」即答だった。さらに、偶然にも、身近で最も信頼している先輩・武隈祥太投手が、その星コーチから勧められた本の著者でもある某大学の先生と面識があり、その伝手で、直接勉強に行く機会を得ることができた。そこで呼吸の重要性を学べたことが、非常に大きな変化のきっかけとなったという。

「今年の1試合目、1回、2回で先に点をたくさん取っていただきました。過去にもそういう経験があって、2年目に先発させて頂いたとき、同じように先に点を取ってもらったのに、すぐその後に点を取られて、結局、均衡した試合になってしまい、途中で降板しました。入りは良かったのですが、点を取ってくださったことで、『そのまま自分が抑えれば勝てる』とか、逆に『点を取ってもらったからには自分が打たれちゃいけない』など、勝手にいろいろ自分でプレッシャーを作っていたんです。それで、自分の投球ができなくなっていた。でも、今回は、そういう気持ちは勝手に出てくるものなので、それが一切出ないように、呼吸にだけ意識を置くことで、自分の投げるボールにだけ集中できました。それが、初勝利という良い結果につながりました。呼吸が、今までの自分と変われた一番の部分です」。

 ただ、一言で“呼吸”といっても、極限まで張り詰めた緊張感の中、呼吸にだけ意識をもっていくことは、決して簡単なことではない。それができるようになったのは、毎日のトレーニングの成果に他ならない。

「基本的に毎日寝る前と、投げる試合の日には、ナイターであれば朝起きてからも、ベッドに横になって、5分ぐらい呼吸だけに集中する時間を作ります。でも、簡単なようですが、意外と集中できなくて、いろいろなことが頭に浮かんできたりするんです。それに意識をとらわれないように、呼吸にだけずっと集中するというのがトレーニングです」。
 
 さらに、呼吸法にもしっかりとしたルールがある。多くのメンタルトレーニング本などでも紹介されている、まず8秒間息を吐いて、4秒間吸うという方法を取り入れている。「呼吸をゆっくりするだけで、自律神経がきちんと整うので、体もリラックスして、ネガティブな発想が出て来ずらくなります。試合となると交感神経が優位になり戦闘体勢に入るので、呼吸がどんどん吸う方に集中していき、心拍数が上がります。そこで、長く吐く方を意識することで、副交感神経が優位になってリラックスするのです」。そうして、多少なりとも呼吸によって心拍数の上げ下げを自分でコントロールできるようになったことで、マウンド上での落ち着きや冷静さが生まれ、本来の自分の投球が発揮できるようになった。

“1勝”に、4シーズンという歳月を要した。だが、本人は決して遠回りだったとは思っていない。「失敗して身につくことが一番大きいと思っています。自分が一生懸命やった結果、ここまでの時間が必要だった。適当に3年間を過ごしていないという自信はあります」。ここまできっぱりと言い切れるだけの不断の努力と練習量こそが、まさに本田投手の人物像そのものである。

 4年目右腕のプロ初勝利に、1年目からこれまで関わってきた指導者、スタッフ、関係者、もっと言えば、プロ入り前も含めた、本当に多くの携わってきた面々が心から喜んだ。それは、すべて「彼の人間性にあると思いますよ。日頃から本当に真面目にやっているからこそ、協力してくれる人が増えて、自分のことのように応援してくれているんだと思います」と、星コーチもその実直さに太鼓判を押す。