天皇皇后両陛下は4月17日から、伊勢神宮で退位に向けた儀式に臨まれるため、三重県を訪問された。19日に2泊3日の旅程を終えて帰京され、これが在位中、最後の地方訪問となった。

 私はこの3日間を現場で取材していて、何とも言えず胸がいっぱいになった。両陛下を乗せた車両や列車が通過する沿道・沿線に大勢の人々が集まっている姿を見て、天皇陛下がいよいよ退位されるのだ、と肌で実感した。

天皇旗がはためいていたセンチュリーロイヤル

 今回の三重県ご訪問では、美智子さまも締めくくりにふさわしい衣服をお召しになっていた。3日間とも、立ち襟風のカットに気品ある美しさがただようスーツを選ばれていた。初日の17日は、あいにくの雨だったが、近鉄宇治山田駅から伊勢神宮・内宮(ないくう)へと向かわれる沿道には、両陛下を迎える人々の行列が、ほとんど途切れることなく続いていた。両陛下を乗せたセンチュリーロイヤル(トヨタが設計した皇室専用車)には、天皇旗がはためいていた。車両の窓をあけて、美智子さまは正面を向くような姿勢で手を振られ、雨にぬれてしまったのではないだろうか、と思うほどだった。陛下も腰を折り曲げるようにして手を振られていた。

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4月17日、雨の中を走行するセンチュリーロイヤル ©ロイター/AFLO

 両陛下は、内宮の「行在所(あんざいしょ)」(天皇陛下が伊勢を訪問される際に使われる宿泊所)に入られ、神宮祭主を務める両陛下の長女・黒田清子さんが出迎えられたという。お食事は、伊勢神宮おひざもとの割烹料理店「大喜」が行在所の調理場へ出向いて、お出ししたようだ。

一瞬「美智子さまに何かあったのでは」と

 翌18日は、穏やかな晴天。今回の三重県ご訪問の目的である、退位を報告する「神宮親謁(しんえつ)の儀」に臨まれる日だった。

 天皇陛下は、外宮(げくう)から内宮の順に参拝されたのだが、その移動に際した車列には、前日よりもさらに荘厳な雰囲気が漂っていて、とても深く印象に残っている。

伊勢神宮の外宮・板垣南御門に到着された天皇陛下。剣と爾が随行

 まず警備車両や白バイ隊、それから黒いボディのサイドカー4台に四方を守られたセンチュリーロイヤルが走行してきたと思ったら、天皇陛下お一人がお乗りになっていたのだ。一瞬、私は早計して「美智子さまに何かあったのでは」と思ってしまったのだが、陛下のお隣には、白い抜き柄のような模様の茶色の布にくるまれ、紫色の組みひもで結ばれた包みが2つ置かれているのがちらりと見えた。河相周夫侍従長が同乗していた。

 これがあの「剣璽(けんじ)ご動座」かと、感慨深かった。戦前までは天皇が1泊以上の旅行で皇居を離れられる際、侍従が剣璽を携えて随行したそうなのだが、戦後は警備上の問題などから大幅に回数は減ったという。ただ、現在でも伊勢神宮参拝に限って行われているのだ。おそらく2つの箱には、それぞれ剣と璽(曲玉)が入っていたのではないか。