1ページ目から読む
2/3ページ目

平成の黄昏とともに特捜部の威信は消えた

「国策捜査」という新語とともに前科は「男の勲章」として扱われ、特捜部に抗った刑事被告人が論客として社会復帰するのも、平成ならではのトレンドである。そういう意味では、検察の正義に徹底抗戦する構えをいち早く国民にアピールしようとした「プリンス」の一言は黙示録的であった。

 一方で、検察は「村木事件」などを機に大きな曲がり角を迎えた。陸山会事件で小沢一郎が無罪になって以降、時の権力を忖度せずに政界の巨悪を暴いた例は少ない。平成の黄昏とともに特捜部の威信は消えた。

検察庁の威信は…… ©文藝春秋

「排除します」(小池百合子、平成29年)

ADVERTISEMENT

 自民党の権力中枢に捜査のメスが入り続けることで、「護送船団方式」などと呼ばれた伝統的なコンセンサスの仕組みは大きく揺らいだ。その隙に政界で頭角を現したのが、平成初期の政治改革から生まれた新党である。

 平成5年の非自民7党1会派による細川政権の発足前夜から、玉石混交の新党が雨後の筍のように乱立した。永田町に出現した「新人類」を束ね、自民党に対抗しうる民意の受け皿として誕生したのが、平成8年に結成された民主党である。

自民党の非主流派からも……

 冷戦後の自民党が社会党を始めとする過去の対抗勢力を融通無碍に取り込む一方で、民主党は対照的にベテラン勢の入党を厳しく選別した。鳩山由紀夫や菅直人ら民主党執行部の政治手法は「排除の論理」と名付けられ、デオドラントなイメージを演出することに成功したのである。その精神は現在の立憲民主党にも受け継がれている。

 平成中期、「排除の論理」を正当化し、積極的に活用するリーダーが自民党の非主流派からも生まれた。「自民党をぶっ壊す」と絶叫しては、党内を改革勢力と抵抗勢力に分けた小泉純一郎である。異分子をも包摂する懐深き戦後保守政治の風格は、「一致結束・箱弁当」を合言葉とする主流派・旧経世会のことを彼が冷遇した頃から鳴りを潜める。だが、国民の大多数は勧善懲悪の小泉劇場に熱狂し、仁義なき同士討ちのシーンに喝采を浴びせた。

小池が率いた新党は、彼女の舌禍で希望を失った

 平成最長の宰相となった安倍晋三は、小泉の愛弟子であり、後継総理である。彼もまた「排除の論理」を巧みに利用し、それ故に高い支持率を維持している平成政治の申し子である。

「あんな人たちに負けるわけにはいかないんです」

 平成29年7月にあった東京都議選で街頭演説に立った安倍は、シュプレッヒコールを浴びせる市民らを指差し、異論を爪弾きにするような罵声で応戦した。その後、敗軍の将となった安倍は一時的に内閣支持率を下げたものの、勝利の女神が微笑んだほうの都知事・小池百合子が直後の衆院選で墓穴を掘ったおかげで生き長らえた。

国政政党「希望の党」の立ち上げを発表した小池百合子 ©文藝春秋

「排除します」

 小池が率いた新党は、彼女の舌禍で希望を失った。「排除の論理」を淵源とする平成の非自民勢力は、新党ブームと小泉劇場のチルドレンである小池が仕掛けた「排除の論理」によって四分五裂となったのである。平成政治の看板娘が訳知り顔で放った失言が、安倍3選をもたらし、唯我独尊の一強政権を盤石にした――と言っても過言ではない。