貴志 味覚の方はどうでしょう。塩辛いものを好んだり激辛のものを食べたりとかはなかったですか?
田中 僕の場合はなかったですけど、取材した人の中にはタバスコを山ほどかけないと食べた気がしない、という方はいました。
貴志 色にしても味にしても、微妙な差異を捉えられなくなるのかもしれませんね。
田中 外の世界に対しての感度が極端に低くなるんです。
医者を替え続ける――“ドクターショッピング”の泥沼
貴志 治療はどのようなものでしたか。
田中 心療内科で薬を処方してもらうのですが、心が弱っているので、医者への不信感とか疑心暗鬼が強かったです。僕の場合ですと、「この医者は依存性の高い薬を飲ませて、自分をずっと通院させてお金を取り続けるつもりだ」とか思ってしまって。それで違う心療内科に行くんですが、そこでも同じことを繰り返し、次々お医者さんを替えていく。その過程でネットの口コミを見るわけですが、これがまたよくない。治療がうまくいった人が2ちゃんねるに書き込むわけがなくて、悪口ばかりを目にします。それでまた不安になって医者を替えるという、ドクターショッピングの泥沼にハマってしまいました。
貴志 医者に不信感を抱いた理由は、薬の処方以外にもあったのでしょうか。
田中 最初の医者に「あなたのうつ病は一生ものですよ。一生付き合って行きなさい」と言われたのがショックで。しかもその先生、診療中にタバコ吸うんですよ。それで信用ならん、と。
貴志 替えた先生はどうでした?
田中 その先生は1人目のお医者さんとは違う薬を処方してくれたんですが、これまたネットで薬の評判を調べたら、効果が現れて減薬するときにシャンビリなる現象があるらしいことがわかったんです。つまり耳の中でシャンシャン音がなって、身体が敏感になっているから、何に触っても感電したようにビリビリする、と。気持ちが落ちていたので、そんな薬飲んだら大変なことになる、と不信感をおぼえてまた医者を変えました。
貴志 『うつヌケ』の中でも、お医者さんとの信頼関係について描かれていたところがありました。
田中 それで3人目のお医者さんがようやく「田中さんの望む治療で行きましょう」と言ってくださったので、安心することができたんです。