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 うつの漫画家を主人公にした新作を構想中の貴志祐介さんと『うつヌケ』の著者、田中圭一さんの対談。新生活が始まる春は、心も変調しやすい。うつ病の体験、その抜け出し方、うつとの付き合い方について聞きました。【『うつヌケ』対談全2回/#1より続く

うつの漫画家の小説を構想中の貴志祐介さん(左)と『うつヌケ』の著者・田中圭一さん

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うつ時代、アルコールやタバコに逃げなかった?

貴志 素朴な疑問なのですが、気分が落ち込んだとき、例えばアルコールに逃げようとは思いませんでしたか?

田中 副業で漫画を描いていましたから、ほとんどお酒は飲まなかったですね。平日は仕事が終わったあとにネームを書くのでお酒を飲むわけにはいかないんです。貴志さんはお酒は飲まれますか?

貴志 会社員の最後の頃はかなり飲んでいました。保険会社で地方支社にいたのですが、毎日のように窓口に押しかけてきて保険会社から金を取ろうとする輩がいる。そうすると精神的に追い詰められていて寝られなくなるんですよ。毎日ヘッドホンでガンガンとハードロックを流しながら詰将棋の本を眺めて、ワインを一本空ける。そうやって頭に負荷をかけて、わけがわからなくなって気を失うように眠るということを繰り返していました。いまでもアルコールに逃げるという癖はあるかもしれませんね。

田中 そうしてアルコールに逃げられたのはよかったのかもしれません。私の場合、いまにして思えば、タバコをやめたのがうつ病に関係していたかもと思うことがあります。タバコって体には悪いですが、気分転換にはなる。うつになった会社に転職したのが2001年で、その年に毎日2箱吸っていたタバコをやめました。

 

貴志 それだけ吸っていてよくやめられましたね。

田中 自力ではやめられなくて、最終的にはニコチンパッチを使いましたけど。

貴志 うつになってから、また吸いたくなったりはしなかった?

田中 それが不思議なことにまったく吸いたくない。元々健康のためとかではなくて、タバコに依存している状態が嫌で禁煙したので。

貴志 タバコも酒も、何か影響があったんですかね。

田中 どちらも気分を変えるものですから、私にとっては影響がゼロではなかったかもしれませんね。僕の場合は、漫画を描いていたのが、貴志さんにとってのアルコールのような役割を果たしていたのだと思います。だいぶあとになってから気付いたのですが、病気になって最初の方は土日にはうつの症状が出なかったんですよ。

貴志 土日も休みなしで働くとなるとストレスが溜まりそうですが、それは不思議ですね。

田中 自分を嫌いになってしまったことが僕のうつの原因でしたから、原稿依頼があって漫画を描いている時間は、自分が必要とされていることを確認できる時間だったんです。とはいえ、だんだん土日もうつの症状が出るようになっていたのですが。