高齢者の自動車事故が増えている。道交法が改正され、認知症と診断されれば、免許停止か取消しになるが、それで問題解決となるのか。高齢者の運転リスクを考える。(出典: 文藝春秋クリニック もうボケなんか怖くない! 認知症[予防&介護]のすべて 2017年2月15日)
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自動車を運転している時に、車間距離が短くなる、センターラインを超える、どこかにぶつけてしまう、といったことはないだろうか。
もしくはあなたが助手席に座っている時に、家族や友人である運転者が一時停止を見逃している、片方を見ていないようだ、やけにスピードを出す、車庫入れに失敗する、というようなことがないだろうか。
運転時の異状行動が頻繁に続くのなら、認知症を疑ったほうがよいかもしれない。
全国の高速道路で2015年に起きた75歳以上のドライバーによる逆走のうち、63%が運転免許更新時の認知機能検査で「認知機能の低下や認知症の疑いがある」と判定されている。また、死亡事故全体のうち、75歳以上のドライバーによる事故は2006年の7.4%から15年は12.8%まで増加した。いま一度、自身や家族の運転を見直す契機としてほしい。
認知症患者は、全般的に交通ルールを無視する
「認知症の人と家族の会」東京都支部の大野教子さんによると、「認知症患者は、全般的に交通ルールを無視する」という。
たとえば交差点では左折車が優先されるが、認知症患者は自分が右折であればお構いなしに右に曲がってしまう傾向がある。信号のような大きなルールへの認識はあっても、一時停止や速度などの細かいルールを守れないことが多いのだ。
八千代病院(愛知県)認知症疾患医療センター長の川畑信也医師は、「交通ルールを守れるか、運転技術の衰えを自覚しているかが、認知症と健常な高齢者との境目」と語る。そして、アルツハイマー型認知症の患者が交通違反を犯した時の事例をあげる。
「赤信号を右折したところを警察に捕まってしまったんです。それなのに反省するどころか、『右折せず、まっすぐ行けば見つからなかったのに』とふてくされる。交通違反をして『すみません』と言う人ならまだ大丈夫ですが、ルールが守れていないのに『誰でもやっている』、運転が危なっかしいのに『俺の技術は落ちていない』と主張する人の場合、免許を継続してもいいものかどうか、検査をしながら慎重に見極める必要があります」