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認知症かどうかより、運転免許に特化した認知機能検査を行うべき

 一方で、現状の制度では認知症ではないものの、脳機能が低下したために運転に支障をきたす高齢者を捕捉できない可能性もあるという。

 浴風会病院(東京都杉並区)精神科医の須貝佑一医師は、現在の認知機能検査の在り方を批判する。

「なぜ事故を起こしたのか、脳のどの部分の機能が低下した結果なのか、科学的なデータがありません。アクセルとブレーキの踏み間違えや、駐車券を受け取りつつ車を動かす時に事故を起こしてしまうのは、『2つのことを同時にする』という前頭葉の機能が衰えている疑いがあります。しかし、これは認知症でない高齢者でも陥る危険があるケースなんです。認知症かそうでないかの診断ではなく、運転免許に特化した認知機能検査を行うべきでしょう」

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 認知機能低下が疑われたら、自動車がなくても生活できるような態勢を少しずつ整えたい。交通至便の都会であればまだいいが、地方では免許を返納して運転できなくなれば、生活に支障をきたす人もいる。家族のなかで認知症の患者本人しか運転できない、というケースもあるだろう。

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 前出・東京都健康長寿医療センターの石井研究部長は「ある日突然、免許を取り上げてしまうと、それまでやっていたことが立ち行かなくなってしまいます。特に認知症を発症した場合は運転をしなくてもいい環境を作りながら、本人とコミュニケーションをとり、無理なくやめてもらうことが理想」と話す。

「認知症の人と家族の会」の大野さんは、運転が「生活の足」となるだけでなく、「人として最後のプライド」であると感じている。

「運転は、自分の力であちこち行くことができる、唯一といっていい手段です。認知症の患者さんと家族の関わりを見ていると、運転免許を取り上げられると人として否定されたように感じるようです」

 心が傷ついてボロボロになった患者を何人も見たという。どう乗り越えていけばいいのだろうか。

運転以外の「生きがい」を探す

「まだ認知症になっていない人なら、運転ができるうちにそれ以外の“生きがい”を見つけてほしい。免許がなくなっても『私にはまだこんなに満足できるものがある』という人なら大丈夫」

 軽度の認知症ではなんとか運転が可能であっても、中等度以上に進むと運転そのものが難しくなる。

 また、たとえ認知症でなくても90歳や100歳で運転を継続することは困難だろう。少し運転技術が落ちたかもしれないけど、まだ免許を返納するほどではない――多くの高齢者はそういった認識で、運転している。認知症という診断を受けていなくても、家族や他人が見たら「危ない」運転の人が相当数いるのかもしれない。

 問題となるのは、運転をすることへのリスクが伴うほど脳の機能が低下しているかどうか、だ。違反行為の有無や、ペーパーの認知機能検査だけでは万全とはいえないかもしれない。表4に、認知症患者に特に多く見られる危険な運転行動の8項目を挙げた。1つでも当てはまるなら、運転のリスクが高くなる認知機能低下を否定できない。今は認知症と診断されていない人も、前出「違反行為18項目」か「危険な運転行動」のリストに複数当てはまるものがあれば、一度「物忘れ外来」「精神科」などで認知症専門医の診察を受けることをお勧めする。事故を起こしてからでは取り返しがつかない。