認知機能低下が疑われる違反行為
道路交通法の改正で、今春から免許更新時の高齢者への対応が大きく変わる。現在の道交法では、75歳以上の人は3年ごとの免許更新時に認知機能検査を実施し、「記憶力、判断力が低くなっている」と分類されても、交通違反がなければ医師の診断は不要だ。しかし、2017年3月に施行される改正法以降は、違反があった時点で臨時の認知機能検査を行う(表2参照)。表1に「臨時認知機能検査の対象となる違反行為」を挙げた。これらの行為は認知機能が低下すると行われやすいので、自分や身近な人の運転で当てはまるものがないか確認してほしい。
また、免許更新の際は過去1年間の交通違反の有無に関わらず、認知機能検査で「記憶力、判断力が低くなっている」と判断された人全員に、医師の診断が義務づけられることになった。最終的に認知症と診断されれば、免許停止か取消しとなる。
認知機能検査は、検査時における年月日を回答したり、時計の文字盤を描き、さらにその文字盤に指定された時刻を表す針を描くなど、主に「記憶力や判断力が低くなっていないか」を判定するもの。しかし、この検査が「運転技術と相関しない」という専門家からの指摘がある。
記憶力よりも問題なのは「注意力の低下」
「運転は体で覚えているものですから、極端な話、ペーパーテストが0点であっても運転が上手な人はいます。それは現在の認知機能検査だけでは測りきれません。反対に、テストの点数がそこそこでも、運転が下手な人もいる。問題は、高齢者になると記憶力よりも注意力が低下していくことなのです」
東京医科歯科大学脳統合機能研究センター特任教授で、メモリークリニックお茶の水(東京都文京区)院長の朝田隆医師は、そう話す。
高齢者が事故を起こす原因の一つに、「視野が狭くなる」とよくいわれるが、これも「注意力」が関係している。前出・川畑医師は、「運転には4種の注意力が必要」と解説する。
「まず自動車を運転することに集中する『焦点的注意』、次に何時間でもその注意を続ける『持続的注意』。そして運転する時には四方八方に注意を分散させる『分散的注意』と、たとえ周囲が騒がしくてもそれを無視して、特定のことに集中する『選択的注意』も必要になる」
加齢とともに「分散的注意」や「選択的注意」などの高度な注意力が衰え、認知症になれば新しく入ってくる情報をうまく処理できなくなる。突発的な出来事が起き得る自動車の運転では、事故のリスクが高まることが推測できるわけだ。