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高齢ドライバーの事故が急増中 危険な「ボケ暴走」はこう防ぐ

2019/05/11
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脳の画像診断で認知症を早期診断

 脳が老化すると、注意力や判断力が低下していく。認知症患者はそれがひどくなった状態だが、「脳画像では認知症患者と通常の高齢者は明らかに差が出る」と、東京都健康長寿医療センター研究所の石井賢二研究部長は語る。石井氏はPET(陽電子放射断層撮影法)画像診断研究のリーダーを務め、認知症の早期診断の開発に携わっている。

 図1の脳画像を見てみよう。実は、原因となる病気によって脳の侵される場所は全く違う。脳画像の断面図に矢印がついているのは、働きが悪くなっている箇所だ。

認知症患者の脳をPET(陽電子放射断層撮影法)画像で測定したもの。上図は脳を頭頂から見た断面図で、矢印で示された部分が脳の機能低下を表している。下図は側面からみたもので、影の濃い部分が機能低下を示す(※東京都健康長寿医療センター研究所・石井賢二研究部長提供)

「高齢者の脳は若い人と比べれば、萎縮が出やすい。ですが、年相応の老化で認知症でない人の脳は、全体がバランス良く縮んでいきます。認知症患者は、画像写真のように極端に機能低下が起こる場所があるのが特徴です」

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症状によって運転行動が違う

 アルツハイマー型認知症は脳の「側頭葉」と呼ばれる部分に障害が起こり、短期記憶が難しくなる。運転していると、「あれっ、どこに行くんだっけ?」と行き先を忘れて迷いやすいという。レビー小体型認知症は「後頭葉」に病変が起こり、幻視を起こす。注意力が大きく変動したり、体の動きが悪くなるパーキンソン症状も伴うため、運転行為そのものが難しくなる。

「前頭側頭型認知症では、物事を判断する前頭葉の機能が低下していくので、日常生活では我慢ができず状況をわきまえない行動が見られます。運転技術が衰えるというより、強引に割り込んだり、信号無視をしたりするような交通ルールを守らない行動が見られる可能性があります。血管性認知症の場合は、脳出血や脳梗塞によって起こるので、その損傷を受ける部位によって、症状の現れ方に個人差があります」(石井研究部長)

 画像を見て、認知症かどうかの診断はできても、この人が「安全運転できるかどうか」まで判断することは難しい。例えば、脳画像から患者の視野が欠けていると推測できても、その人がどの程度残りの視野で注意力を保てるかは未知数だからだ。

 前出・八千代病院の川畑医師は、認知症患者338人に運転に関するアンケート調査を実施した。その結果、運転免許を有している人のうち、過去2年間で交通事故を起こした人の割合は3割に上るという。

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「運転免許を有しているものの現在運転していない人では、過去2年間で交通事故を起こした人や違反者が14%いました。少ないデータではありますが、認知症患者はかなりの頻度で事故か違反を起こしているといえるでしょう。アルツハイマー型認知症で一番多いのは、信号無視と一時停止違反。注意力が不足しているのです。視覚認知に問題があるレビー小体型認知症では、道路がゆがんで見える、いろいろなものが小さく、あるいは大きく見えたりすることで物損や追突事故が起きやすい。センターラインを超えるということもあるかもしれません」(川畑医師)