では何が問題だったのか
それを踏まえて意見を申し上げますと、この騒動で浮き彫りになった問題は、第三者であるはずの大人たちが「これからの時代は、義務教育を受けなくていい」「義務教育を受けるべきだ、という考えは思考停止だ」と無責任に煽る行為ではないでしょうか。
特に「インフルエンサー」と呼ばれるインターネット上で影響力のある大人たちが、ポジショントークのために10歳のYouTuberの子どもを「いいぞいいぞ!」と担ぎ上げ、さらには子どもの将来を案じる声に対して「子どもの足を引っ張るな!」「頑張る人を邪魔するな!」と批判する様子を見ていると、たいへん僭越ながら「うわぁ、ひどいなぁ」と感じてしまいました。
私個人としては、彼らの言う「今は義務教育を受けなくてもいい時代」だという根拠はどこから来るものなのか、疑問を持たずにはいられません。
「義務教育を受けずに、差し支えなくどんな仕事にも就くことができる社会」がすでに完成しているならまだしも、今はまだ世の中のほとんどの採用が学歴重視のシステムから抜け出せていないのが実情です。もしも10年後、20年後にそういった社会が実現する可能性があったとしても、それは結果論でしかなく、そのときになってみないと分からないことです。
無責任な言動も「未来の自由」を奪っている
社会の型にはまらず「好きなことをして生きていく」を実現できる人が存在することは事実ですが、彼らが少数派であることもまた明らかです。そうした少数派の成功者の自己啓発本が世間を賑わせることはあっても、例えば「義務教育を受けなかった結果、好きなことで成功できず職業の選択肢も減ってしまった」人たちの声が情報として表に出てくることは、ほとんどありません。
にもかかわらず「これからは義務教育を受けなくてもいい」「インターネットやSNSが当たり前になった今の日本では学校に行く理由がない」などと安易に発言し、さらに10歳の不登校YouTuberを心配する大人たちを「足を引っ張るな」と一蹴することは、果たして責任ある、誠実な行為だと言えるでしょうか。私には、彼らの無責任な言動もまた、子どもたちの「未来の自由」を奪っているように思えます。