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久生十蘭、江戸川乱歩、横溝正史の影響

――なんてダークな青春小説だろうと思って驚いていたら、その次が館に閉じ込められた男女が殺人ゲームを始める『インシテミル』で、またもやビックリ。タイトルは新本格に“淫してみる”という意味もありますね。

インシテミル (文春文庫)

米澤 穂信(著)

文藝春秋
2010年6月10日 発売

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米澤 やっぱり新本格が大好きだったので。大好きになった時期は大学に入ってからなのでだいぶ遅いのですが、本当にいろいろ読みふけって、楽しかった。それでやってみたかったのですが、担当編集者さんに「既作とは傾向が違いますが、本当にこの内容で大丈夫ですか」とお聞きしたおぼえがあります(笑)。そうしたら担当者が京大のミス研ご出身の方で、「OKです」と。

『ボトルネック』と『インシテミル』のふたつで、アマチュア時代に構想していて、かつ、当時書けなかったものをようやく書き終えた感じがしています。

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 確か『インシテミル』が9作目なんですよね。そこで次からは、少し違うものを書いていくんだろうなと思っていました。

――そうですね。それから〈古典部〉の短篇集『遠まわりする雛』を経て、次が短篇集『儚い羊たちの祝宴』(08年刊/のち新潮文庫)。クラシカルで不穏な雰囲気で、最後にそれまで見えていた景色がガラッと変わる展開で、もう、大好きな作品集です。

遠まわりする雛 (角川文庫)

米澤 穂信(著)

角川書店(角川グループパブリッシング)
2010年7月24日 発売

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儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

米澤 穂信(著)

新潮社
2011年6月26日 発売

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米澤 ありがとうございます。二十代になってから久生十蘭が好きになって、ああいうものが書きたいという気持ちが膨らんでいきました。たぶん江戸川乱歩の影響もありますし、横溝正史もちょこっとだけ……。

 

――でも、おどろおどろしい感じかと思ったら、最後の1行でがくっとさせるものもありますね(笑)。

米澤 そうですね(笑)。これは文庫化の時に少し書き換えたものもあります。分かりにくかった部分と、分かりやすくしすぎた部分を調整しました。

 全体の最後については、解釈の余地があるようにしたかった。自分も小さい頃、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』(中村融訳、創元SF文庫ほか)を読んで火星人と戦った衝角艦サンダー・チャイルド号が沈んでしまうのがどうしても気に入らなくて、自分でサンダー・チャイルド号が生き延びた話を書いたんです。読者の解釈で結末を変えることもできる物語って楽しい。自分の子供の頃の楽しみをそのまま読者にも楽しんでもらえるよう、想像の余地を広げるように作りました。

――想像の余地を広げるといえば、リドル・ストーリーです。『追想五断章』(09年刊/のち集英社文庫)では結末の解釈を読者に委ねるリドル・ストーリーが大きなモチーフになっていますよね。挿入される5つのリドル・ストーリーは世界各国が舞台の話で、そのひとつひとつがまた素晴らしい。

追想五断章 (集英社文庫)

米澤 穂信(著)

集英社
2012年4月20日 発売

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米澤 最初はリドル・ストーリーを使ってミステリーを書くということを考えていました。ひとつひとつの話は、前述の久生十蘭も好きですし、カルヴィーノの『見えない都市』(米川良夫訳、河出文庫)も大好きですから、そのイメージがありました。それに、アンソロジーのシリーズ『書物の王国』(国書刊行会)の第1巻「架空の町」が大好きだったんです。これはいろんな街を舞台にした短篇を集めたアンソロジーで、ポオの「鐘楼の悪魔」(野崎孝訳)やロード・ダンセイニの「倫敦の話」(西條八十訳)もこれで読みました。自分も旅行で知らない街に行った時に、この街をこういう風に言い表そう、ということを考えるようになりましたね。

 この『書物の王国』のシリーズは、「アラビアンナイト」のお話もあれば日本の近現代文学もあって、あの軽やかさが好きでした。各巻のテーマも面白かったんです。「架空の町」「月」「美食」……。お金が足りなくて全冊を揃えられなかったんですが、「両性具有」や「義経」なんていう巻もありました。