――デビュー後、〈古典部〉シリーズの第2作『愚者のエンドロール』の次に出したのが『さよなら妖精』なんですね。どうしてユーゴスラヴィアについて書こうと思ったのでしょうか。
米澤 ユーゴの紛争があった当時、私はまだ学生だったんですが、どれだけテレビを見ても、新聞を読んでも、なんであの国が戦争をしているのかよく分からなかったんです。どうもピンとこない。チェコスロヴァキアはソビエトの圧迫がなくなった時に、「ビロード離婚」を経て遺恨なくチェコとスロヴァキアになっている。なのにユーゴスラヴィアは国を元通りに分けましょうというのに、なぜあそこまで延々と戦うのか疑問で、それを分かりたくて大学で研究のテーマに選びました。その時に研究したテーマで小説を書いた、という流れになります。
――もともとは〈古典部〉シリーズ内で書く予定だったとも聞いています。独立した作品となったのはどうしてですか。
米澤 『愚者のエンドロール』を出した後、レーベルが休止になるということで〈古典部〉シリーズを続けられなくなり、完成原稿が宙に浮いてしまったんです。ちょうどその頃、東京創元社さんからお話をいただいて、「他にどういうものを書かれていますか」と訊かれたので「実はできているものがあるんです」と言ってお見せしました。そうしたら1、2日後には連絡がありまして、「これは世に出さなければいけない小説です、うちで出しましょう」と言っていただいて。当然、登場人物たちは〈古典部〉の面々ですから、書き換えねばならない。本来はこの小説で〈古典部〉が大きなターニングポイントを迎えるはずだったので、書き換えても大丈夫かという懸念はいただいたんですけれども、私からも「ぜひ出していただきたい」とお話ししました。角川の編集者さんも、東京創元社の方と3人で会った時に「米澤さんをよろしくお願いいたします」と言ってくださって、それで改稿して『さよなら妖精』として東京創元社のミステリ・フロンティアから刊行されました。
――その後〈古典部〉シリーズが再開することになった時、「ああ、『さよなら妖精』も本当は〈古典部〉だったのに」とは思いませんでしたか(笑)。
米澤 いえ、あの時にミステリ・フロンティアから『さよなら妖精』を出していなければ、〈古典部〉の次を書かせていただく機会はなかったと思うので、そこは大丈夫です。要するに『さよなら妖精』がある程度広く読んでいただけて、次に書いた〈小市民〉シリーズも好調だったことによって、角川さんから再度連絡が来たという流れになりますから。