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なぜ〈古典部〉シリーズの『愚者のエンドロール』の次に『さよなら妖精』を書いたのか――米澤穂信(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2015/09/13

genre : エンタメ, 読書

(1)より続く

米澤穂信(よねざわほのぶ)

米澤穂信

『氷菓』で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞し、デビュー。以来ミステリーを中心に活躍する。2004年に東京創元社から出した『さよなら妖精』が2005年版の「このミス」で国内部門20位となり、高く評価された。2011年『折れた竜骨』で日本推理作家協会賞を、2014年『満願』で山本周五郎賞を受賞。7月31日刊行の『王とサーカス』刊行。

――デビュー後、〈古典部〉シリーズの第2作『愚者のエンドロール』の次に出したのが『さよなら妖精』なんですね。どうしてユーゴスラヴィアについて書こうと思ったのでしょうか。

愚者のエンドロール (角川文庫)

米澤 穂信(著)

角川書店(角川グループパブリッシング)
2002年7月31日 発売

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米澤 ユーゴの紛争があった当時、私はまだ学生だったんですが、どれだけテレビを見ても、新聞を読んでも、なんであの国が戦争をしているのかよく分からなかったんです。どうもピンとこない。チェコスロヴァキアはソビエトの圧迫がなくなった時に、「ビロード離婚」を経て遺恨なくチェコとスロヴァキアになっている。なのにユーゴスラヴィアは国を元通りに分けましょうというのに、なぜあそこまで延々と戦うのか疑問で、それを分かりたくて大学で研究のテーマに選びました。その時に研究したテーマで小説を書いた、という流れになります。

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――もともとは〈古典部〉シリーズ内で書く予定だったとも聞いています。独立した作品となったのはどうしてですか。

さよなら妖精 (創元推理文庫)

米澤 穂信(著)

東京創元社
2006年6月10日 発売

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米澤 『愚者のエンドロール』を出した後、レーベルが休止になるということで〈古典部〉シリーズを続けられなくなり、完成原稿が宙に浮いてしまったんです。ちょうどその頃、東京創元社さんからお話をいただいて、「他にどういうものを書かれていますか」と訊かれたので「実はできているものがあるんです」と言ってお見せしました。そうしたら1、2日後には連絡がありまして、「これは世に出さなければいけない小説です、うちで出しましょう」と言っていただいて。当然、登場人物たちは〈古典部〉の面々ですから、書き換えねばならない。本来はこの小説で〈古典部〉が大きなターニングポイントを迎えるはずだったので、書き換えても大丈夫かという懸念はいただいたんですけれども、私からも「ぜひ出していただきたい」とお話ししました。角川の編集者さんも、東京創元社の方と3人で会った時に「米澤さんをよろしくお願いいたします」と言ってくださって、それで改稿して『さよなら妖精』として東京創元社のミステリ・フロンティアから刊行されました。

――その後〈古典部〉シリーズが再開することになった時、「ああ、『さよなら妖精』も本当は〈古典部〉だったのに」とは思いませんでしたか(笑)。

米澤 いえ、あの時にミステリ・フロンティアから『さよなら妖精』を出していなければ、〈古典部〉の次を書かせていただく機会はなかったと思うので、そこは大丈夫です。要するに『さよなら妖精』がある程度広く読んでいただけて、次に書いた〈小市民〉シリーズも好調だったことによって、角川さんから再度連絡が来たという流れになりますから。

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