3月下旬になるとメディアやネットを賑わせる恒例行事がある。防衛大学校卒業式がそれだ。と言っても、話題の焦点は卒業式自体ではない。防衛大学校卒業後に自衛官として任官しない、いわゆる「任官辞退者」の話だ。
特別職国家公務員としての身分を与えられる
今年3月17日に開かれた防衛大学校卒業式では、478人の卒業生のうち任官辞退者は49人と報じられている。彼ら彼女らは、自衛官として任官せず、卒業後は民間企業に就職するなど、別の道を歩むことになる。
なお、本稿では任官しなかった防大卒業者を「任官辞退者」と表記する。公的には防衛庁時代から「任官辞退者」の方が使われていたが、報道では「任官拒否者」と表記されることが多かった。しかし、近年は報道でも「任官辞退者」とする例が増えており、昨年度の防大卒業式を伝える主要紙のうち、「任官拒否」と表記したのは読売新聞のみであった。
防大生は特別職国家公務員としての身分を与えられており、入学金と学費は無償。また、学生手当、期末手当が支給され、全寮制で食事も出されている。4年間国費で暮らし教育を受けながら、自衛隊に入らないのは何事か。様々な批判の声が新聞の投書欄やネットで散見される。
だが、本稿の結論を先に言ってしまうと、防大卒業式時点で任官を辞退する防大生は、自身の能力や適性を早期に評価し、自衛隊側の損失を低いレベルに留めている誠実な人と言える。それは何故かをみていこう。
過去に見送られた授業料償還義務化
本論に入る前に、簡単に防衛大学校生の進路について触れたい。防衛大学校で4年間学んだ後、卒業と同時に陸海空自衛隊いずれかの曹長の階級が与えられる。その後1年間、陸海空それぞれの幹部候補生学校で幹部としての教育を受けた後、尉官級の幹部自衛官として各地に赴任する形になる。
前述したように、防大生は入学金・授業料は無償で、手当も出ている。大学授業料の高騰が問題になっている中、こうした待遇は破格と言えるかもしれない(ただし、学生としての自由は相当制限されるが……)。当然、不公平感は大きく、新聞の投書には昔から防大生の中退や任官辞退に厳しい声があった。
そして、民主党政権時に防衛大学校の経費について事業仕分けが行われた結果、任官辞退者の授業料について、仕分け人11人中10人が「償還を義務付けるべき」と判定している。このため、2012年に野田政権が任官辞退者に対し、240万円余りの授業料返還を義務付ける自衛隊法改正案を閣議決定した。
ところが、この動きに防大OBの自民党国会議員4人が反対意見を森本防衛大臣(当時)に提出している。これに名を連ねた尾辻秀久参院副議長(当時)は任官辞退者ではないものの、家庭の事情で防大を中退した経歴を持つ。防大OBの中には、任官辞退者に対する授業料償還に反対意見も多い。個々人でその理由は異なるだろうが、防大志望者減少を懸念する声も聞かれる。結局、法案は廃案になり、償還義務化は見送られている。しかし、授業料等の償還を求める声は、未だに燻り続けている。