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2014年以降、卒業式への任官辞退者の出席を認めず

 だが、償還金義務付けの動きに見られるように、近年は任官辞退を申し出にくくする動きの方が強い。防衛大学校は2014年から、任官辞退者の卒業式への参加を認めないようになった。毎日新聞が入手した内部資料によれば、2013年に発覚した防大生複数人による保険金詐取を契機とした、綱紀粛正策の一環とされている(毎日新聞2017年3月17日夕刊)。

 もともと、防大卒業式では任官辞退者の出席を認めていなかった。出席を認めるようになったのは、警視総監を退任後の1978年に防大校長に就いた土田国保校長時代からだ。『防衛大学校五十年史』は、次のように土田校長の意図を伝えている。

〈任官辞退者であろうと、本校で受けた教育を生かして国家社会のために働いてくれるはずだ、という確信が土田氏にはあった。同級生の絆を尊重し、青年の誇りと名誉を傷つけてはならない、との配慮もあった〉

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國分良成学校長より卒業証書を授与される(防衛大学校ホームページ「防大タイムズNo.210」より)

 土田校長は任官辞退者も同期生として送り出すことで、それが国家と個人にとって有益と考え、任官辞退者も卒業式に出席させることにした。少なくとも、卒業式に出席させることで、嫌な思いを任官辞退者にさせることはないだろう。

自衛隊に行かない防大生の事情とは

 そもそも、なぜ自衛隊に行かない防大生が出るのか。ここから先は、防大生個人の事情も関わり、公的なデータも多いものではないため、周辺環境のデータや推測を交えていることをあらかじめご了承いただきたい。

 まず、当の自衛隊が高校生に対して、防大に入っても自衛隊に入る必要はないと説明している点だろう。地域で自衛官募集業務を担う各地方協力本部にはノルマがあり、人数集めのために防大のメリットや入隊義務がないことを強調する傾向があるという。筆者も高校生の頃、自衛隊のリクルーターからそのようなことを言われた記憶がある。ところが、実際に入校すると話が違う、という例は昔から聞かれる。

 また、家庭の経済的事情で防大に進学した学生も少なくないと思われる。防大1期生の中森鎮雄によれば、防大1桁台期は経済的事情による進学が多かったが、高度経済成長に入り減少していた。ところが、中森が現役の防大50期生(2002年入校)9人に話を聞くと、過半数が経済的事情により進学したと答えたという(中森鎮雄『防衛大学校の真実』より)。

今年4月に行われた防衛大学校の入学式(防衛大学校ホームページ「防大タイムズNo.211」より)

 厚労省の国民生活基礎調査を見ると、児童のいる世帯のうち、生活が「苦しい」と答えた割合は、50期生が受験した年である2001年は59.3%に対し、2018年58.7%と大差なく、子持ち家庭の経済事情は50期生と現在で違いは少ないだろう。とすると、現在も経済的事情により入校した防大生は多いのかもしれない。

 これらの事情から、自衛隊入隊を前提としないで入校した防大生は少なくないのではないか。そして、防大生は自分に合わないと感じて退学を申し出ると、教官から何度も説得されるという。説得を受け、残りながらもモヤモヤを抱えていたものが、防大卒業、あるいは幹部候補生学校入校という機会に行動になって顕れるのではないだろうか。なにせ、人生の大半が決まる瞬間でもあるのだ。