任官1月以内に辞める「入校辞退者」はより深刻だ
防衛大が授業料償還で揉めている中、既に授業料の償還が義務付けられているのが、防衛医科大学校だ。しかし、教育に多額の費用がかかり、高給で需要も大きい医師という職業を考えれば、致し方ない部分も大きい。実際、僻地医療の充実を目的に設立された自治医科大学でも、入学金・授業料は免除で全寮制と、防衛医科大学校に近い制度を取っており、卒業後に知事が指定した公立病院等に所定期間勤務しなければ、償還金を求められる。
批判が多い防大卒業時点での任官辞退だが、前述したように、この時点での辞退は自衛隊にとって損失が小さく済む。
任官者は卒業と同時に一般幹部候補生任命・宣誓を行う。この時点で陸海空のどれに進むかが決まっており、各自衛隊の人事計画に組み込まれている。企業に例えると、内定式のようなものだ。これ以降に辞められると、計画に狂いが生じる。
ところが、防大を卒業して任官したにも関わらず、翌月に幹部候補生学校に入校しない任官者(仮に「入校辞退者」とする)は少なくない。筆者が防衛省から提供を受けた幹部候補生学校の入校者数データを元に集計したところ、近年の入校辞退者は次の通り推移していた。
これによれば、入校辞退者は毎年出ており、2013年度卒は27人も出ている。この年度の任官辞退者は10人で、その3倍近くの入校辞退者を出していることになる。防大卒業から1月も経たないうちに自衛隊を辞めているのだ。
直接的にカネが出たかを問題視
かつては、約20万円の退職金を受け取って入校辞退する任官者も多数おり、国会でも取り上げられた結果、1989年には入校辞退者や入校後半年未満で辞めた場合は退職金が出ないよう防衛庁給与法が改正されている。だがこれ以降、任官辞退者があれほど報じられている反面、より問題が深刻な入校辞退者はほとんど報じられていない。メディアも国民も、自衛隊への影響の大きさではなく、直接的にカネが出たかそうでないかを問題視しているということなのだろう。
幹部候補生学校入校前や在校中以外にも問題はある。幹部候補生学校卒業後、任地に配属されてすぐに辞表を提出する幹部の話も聞く。ここまでくると、当年度中の人事計画のフォローはまず無理だろう。翌年度にも影響が出るかもしれない。防衛大学校に在学しているうちに、身の振り方をハッキリしてくれる任官辞退者は、それ以降に辞められるよりずっといいのだ。
さて、任官辞退者に隠れて、任官辞退より自衛隊にダメージが大きい辞め方が多数あることがお分かりいただけただろうが、そうなると、できるだけ防衛大学校在学中に進路をハッキリ決めてもらった方が良いのは自明だろう。防大在学中に任官辞退を決めやすい環境にした方が良いことになる。