前述の歴史学者ジョージ・ポットマンならば、イザヤ・ベンダサン(山本七平)、ポール・ボネ(メリー喜多川の夫・藤島泰輔)、ヤン・デンマン(斎藤十一)を引き合いにして、「昭和時代に出版界ではニセ外国人御三家が人気を博したように、日本人には非実在外国人を楽しむ精神性を持っているのです」と評するところだろう。
わたしたちが外国人に求めるもの
非実在外国人に限らず、日本にあっては、外国人はコンテンツとして強い。なにしろ「外タレ」なる言葉もあるくらいだ。その根源は欧米に対する劣等感だろう。「フランスでは~」「英国では~」に弱く、『フランス人は10着しか服を持たない』なる書名のベストセラーもある。
日本近現代史にくわしいジョージ・ポットマン教授ならば、明治時代に陸軍の教官として来日して貢献し、影響を残したメッケルは、じつはドイツ本国ではたいした業績も残さぬ二流の軍人であった(注2)、との逸話をひっぱり出してくるかもしれない。
その一方でアジアの者には自国を非難させ日本を称賛させる。そういえば朴泰赫(訳・加瀬英明)『醜い韓国人』(光文社1993年)というのもあった。著者の「朴泰赫」は実在せず、実体は加瀬英明だろうとの指摘があって論争となる。
「ニセ外国人御三家」から、「ギルバート現象」へ
このような「外国人に言ってほしいことを言わせる」出版物は今日、花盛りである。安田峰俊が「ニューズウィーク」(2018年10月30日号)の特集で命名した「ギルバート現象」もそれだ。ケント・ギルバートは50万部以上のベストセラーをはじめ、ここのところ年に10冊以上を著している。それらではGHQによって徹底的に日本人は洗脳され、左傾化した結果、「反日」と化したなどといった主張がなされている。
なかでもよく売れたのが『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社2017年)なのだが、安田の取材によれば、これは担当編集者と日本人スタッフがほとんどを作ったもので、愛国心の本だといって口述させたのを中国・韓国批判のものに作り変えたという。その編集者は「日本人は白人から言われるのに弱い。ギルバートさんが言うほうが説得力が増すと考えた」と言っていたといい、当のケント・ギルバートも安田のインタビューで「僕の本が売れたのは、やはり部外者(アメリカ人)だからでしょう」と述べている。