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なぜわたしたちは捏造「神学者カール・レーフラー」の魅力に抗えないのか

「ニセ外国人御三家」から「ギルバート現象」へ

2019/05/25

「ジョージ・ポットマンの平成史」をご記憶だろうか。テレビ東京とイギリスCBBの共同制作のドキュメンタリー番組で、ヨークシャー州立大学の歴史学部教授ジョージ・ポットマンが日本の文化を考察していくというもの。

 たとえば「ファミコン史」の回では、“裏技”に「本来ならば、『バグ』でありリコール対象ともいうべき現象」をも楽しむ日本人の精神を見てとり、そこには「欠けたり歪んだりしている器にこそ美を見いだす、茶の湯における『破調の美』」に通じるものがあると考察する……という具合(注1)。

©iStock.com

 もちろんイギリスにCBBという放送局はなく、ジョージ・ポットマンという歴史学者も実在するものではなく、役者が演じているのである。この番組は架空の外国人を狂言回しに仕立てることで、ゲームの「バグ」と「茶の湯」をつなげるなどといった知的エンターテイメントを成り立たせたのであった。

SNSで盛り上がった「神学者カール・レーフラー」事件

 この番組を持ち出したのは「神学者カール・レーフラー」事件があったからだ。もっとも、こちらはアカデミズムの世界の出来事であるのだが。

 ことのあらましはこうだ。東洋英和女学院・前学長の深井智朗の2012年に著した学術書に、カール・レーフラーなる神学者による論文「今日の神学にとってのニーチェ」(1924年)が4ページにわたって紹介される。それに疑問をもった研究者が検証を重ね、公開質問をしたのをきっかけに、同大学は調査委員会を発足し、そういった人物も論文も実在しないと結論づける。そして著書を出版した岩波書店は絶版・回収する事態に発展するのであった。

研究不正問題で頭を下げる東洋英和女学院理事長ら ©時事通信社

 事件が報じられるなり、SNS内では「神学者カール・レーフラー」はたちまち人気者となる。なにしろ字面もいいし、語感もいい。そのうえ架空の論文まで用意し、それを著書で引用までするとあっては、まるでメタフィクション小説のようで、カール・レーフラーの存在自体がひとつの作品であるかのようだ。SNSで盛りあがりついでに、カール・レーフラーを名乗るツイッターアカウントが出来る始末であった。