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特集私が令和に語り継ぎたい「平成の名言」

「私の携帯には菅さんの番号が入っている」加藤の乱は、ネットに煽られ自滅するおじさんの先駆けだった

平成の言葉

2019/04/29

「菓子パンなんか二つも食えるか」(前原誠司)、「人間には、敵か家族か使用人の3種類しかいない」(田中真紀子)。いずれも政治家による忘れがたい名言である。しかしここで紹介したいのは、ネットに煽られて自滅する「加藤の乱」での加藤紘一のこの一言だ。

「私の携帯には菅さんの番号が入っている」

加藤紘一氏 ©共同通信社

 ときは平成12年、森政権は不人気をきわめていた。そこで加藤紘一は与党自民党の議員であるにもかかわらず、野党提出の内閣不信任決議案に同調するかっこうで倒閣を画策する。世にいう「加藤の乱」である。側近だった谷垣禎一が半泣きの加藤に「大将なんだから。一人で突撃なんて駄目ですよ」と詰め寄る、あれだ。

 野党と手を組んで政権を奪う。こうした裏工作をともなう権力闘争は、竹下派やそれを割ってでた小沢一郎の真骨頂であった。そうした彼らを批判し、距離を置いていたのが加藤である。その姿はひとによっては政界の良識派に、ひとによっては甘ちゃんに見えていた。そんな加藤が意を決して自ら権力闘争に打って出たのである。

「◯◯さん?  Facebookでつながってるよ」おじさんの原型か

 ことの発端となる会合で、加藤は「私の携帯には菅さんの番号が入っている」と吹聴する。ここでの「菅さん」 は「すがさん」ではなく「かんさん」だ。今をときめく菅官房長官でなく、当時野党の実力者であった菅直人である。

 これを人脈自慢の言葉としてみると「◯◯さん?  Facebookでつながってるよ」おじさんの原型に思えてくる。あなたの会社にもいるだろう。会話をしていると、むこうのほうからそう言って話に入ってきて、「メッセンジャーで連絡してみようか?」といってくる人が。そしてそれに頼って実際に◯◯さんに会ってみると、言うほど知り合いでなかったらしくて、面食らうことになる。

©iStock.com

 わざわざ野党にも自分の人脈があって、有力者とも親しい間柄だと誇示しないといけないのは、実力不足の裏返しに他ならず、実際、老獪な野中広務らによって党内の同調者らは切り崩されていき、ぐだぐだになる。くだんのセリフは加藤の未熟さばかりが目立った「加藤の乱」の象徴的な言葉といえよう。

加藤を煽った「ネットの声」

 そもそも加藤はなぜ出来もしない権力闘争を始めてしまったのか。当時、干されていたからである。いわば党内野党の立場であった。おまけに世間は森首相にうんざりしていた。今日も東京オリンピック問題でそんなだが、当時森内閣の支持率は一桁というありさまで、そうした世相にあって「ネットの声」が加藤を応援し、追い詰められていた加藤はそれに煽られるようにして森内閣打倒の勝負に出たのである。