2009(平成21)年の政権交代直後、民主党政権の施策で最も国民の注目を集めたのは「事業仕分け」だった。歳出削減を目指し、外部の視点を入れて国や自治体の事業を問い直す。国会議員やシンクタンクのスタッフらが公開の場で高級官僚を問い詰めるシーンがドラマのようでテレビ映えすることから、政権のイメージを代表するイベントに。今年3月に亡くなったロックミュージシャン内田裕也さんも“見学”に訪れて話題となった。
「世界一になる理由は何があるんでしょうか?」
2009年11月、次世代スーパーコンピューター開発が俎上に上り、文部科学省や理化学研究所の担当者らが「世界一を取ることで(国民に)夢を与えるのは、プロジェクトの目的の一つ」と説明した。それに対して、「仕分け人」の蓮舫参院議員が「世界一になる理由は何があるんでしょうか?」と聞いた後、「2位じゃダメなんでしょうか?」と発言した。官僚らにとっては意表を突かれた言葉だったのだろう。明確な答えはなかったように記憶する。
戦後の荒廃から立ち上がった日本は、奇跡ともいわれる復興を成し遂げた。そこには確かに「世界一」という目標があった。それを目指して必死に頑張り続けた。しかし、その国はこのころ、壁にぶつかっていた。リーマンショックは前年の2008年9月。2009年3月には日経平均株価が7054円98銭とバブル崩壊後の最安値を記録した。裁判員裁判がスタートし(5月)、マイケル・ジャクソンが急死(6月)。GDP(国内総生産)が中国に抜かれて世界第3位に落ちるのは翌年2010年だ。
多くの人が「これからどうすればいい?」と考えていたのではないか。そんな時、この言葉は新鮮な衝撃とともに1つの方向性を示した気がする。
素人集団の政治ではあったが……
そう考えれば、あの「悪夢」と呪詛される民主党政権の意味も浮かび上がる。確かに、稚拙でパフォーマンスばかりが目立つ素人集団の政治だった。しかし、そこには、それまでとは違う「もう一つの道」が示されていた。
事業仕分けに代表される情報公開への積極姿勢をはじめ、「政治主導(脱官僚)」、「コンクリートから人へ(脱ダム)」、「脱原発」……。しかし、政権交代は一時の夢に終わり、ついには民主党自体が雲散霧消してしまったこともあり、改めて「もう一つの日本」の可能性を検証しようという機運はない。いまは「安倍一強」の長期政権。日本と日本人は、いまも空しく世界一を目指しているのだろうか。