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「韓国政府も納得できるメンバーにしないといけない」

 しかし、この財団構想は韓国政府の横槍で骨抜きにされてしまう。

「私は将来的にポスコだけではなく、請求権資金を流用した他企業にも参加を呼びかけるべきだと考えていました。それを踏まえて、準備委員会では被害者中心の財団を作るという構想が決議された。

 しかし、行政安全部(財団などを所管する官庁)の認可が下りなかったのです。行政安全部は『理事が全員被害者ではだめだ。韓国政府も納得できるメンバーにしないといけない』と指導をしてきたのです。結果的に理事のメンバーは政府が決めてしまい、政府主導の財団になってしまったのです」(キム氏)

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 2014年6月2日に「日帝強制動員被害者支援財団」(以下、ポスコ財団)が発足した。ポスコはまず30億ウォン(約3億円)を2回に分けて拠出し、現在まで計60億ウォン(約6億円)を出資した。そして将来的には総額100億ウォン(約10億円)の出資を行うと約束した。財団の理事には民族問題研究所のイ・ヒジャ氏、チェ・ポンテ弁護士といった本連載で紹介した徴用工裁判の仕掛け人も就任した。残りの理事は、大学教授や市民運動家が大多数を占めた。

ポスコ財団の事務所(筆者撮影)

 財団の活動方針も当初の目的からは大きく逸脱したものに成り果ててしまった。ポスコの出資金は補償金として被害者に分配されるものと予想されていたのだが、そうはならなかったのだ。

「理事の間でポスコ出資の60億ウォンは銀行預金として保管し、利子でポスコ財団は活動するという方針が固められてしまったのです。メインは追悼事業ということも決まった。理事は『被害者の血と汗の結晶であるお金を財団で使うことはできない』などと説明を行ったのです」(太平洋戦争犠牲者遺族会関係者)

ポスコ財団職員は、国家公務員並みの高収入

 出資金を預金に回すという方針はポスコにとっては都合がいいものだ。資金が減損するリスクがないうえに、形式上は被害者支援をしている形を取れるので批判をかわすこともできる。

 さらに、このポスコ財団には韓国政府から年間50億ウォン(約5億円)もの補助金が投入されている。50億ウォンはポスコ財団の人件費等に使用されているという。

「ポスコ財団の職員の月収は約400万ウォン(約40万円)です。これは国家公務員並の高い給与水準なのです。当然、補助金が出るなら被害者補償に充ててもいいのではないかとの意見も出たが、黙殺されてしまう。結局、ポスコ財団で利益を得るのは職員や理事、市民運動家や大学教授といったエリート層の人々だけなのです」(同前)

 2018年から被害者代表として財団の理事に就任した、ソ・カンソク氏もこうため息をつく。

「私は被害者の立場として理事になりました。しかし被害者のための団体なのだから、多くの被害者を理事に入れようという話を提案すると、市民運動家が常に反対するのです。『なぜ関係ない人間ばかりが理事になり、実際の被害者を排除するんだ!』と喧嘩したこともありました。財団が果たして被害者のために役立っているのか、という疑問を常に感じています」

ポスコ財団理事のソ・カンソク氏(筆者撮影)