なぜ被害者を無視した活動を行うのか
ソ氏は終戦前まで広島市で生活をしていた。国民学校2年生の時に原爆体験をした被爆者一世だ。現在の徴用工問題で度々指摘されている“強制連行”という歴史認識についても、ソ氏は個人的には違った解釈を持っているという。
「いまはすべての徴用者が強制連行とされています。しかし、私の家族は日本で働けば経済が安定すると聞いて広島に渡って土方をしていました。そこで被爆したのは不幸でしたが、強制連行ではありません。だからいま徴用者のすべてが被害者という論調もありますが、それは間違いだと感じています」
穏やかな表情で取材に応じてくれたソ氏だが、ポスコ財団の話になると語気を荒げた。
「ポスコ財団の理事となり、中身を知るほどにストレスがたまり辞表を書きたい気分になります。私も理事としての職責を果たすために、被害者を排除するようなやり方を変えないといけないと何度も提案をしているところです」
なぜ被害者を無視した活動を行うのか。ポスコ財団の設立当時、理事(任期満了で現在は退任)を務めていたイ・ヒジャ氏に話を聞いたが、「私は4年間理事をしたが、その理由は財団に基金が集まって被害者の権利を支援してもらうためでした」と答えるだけで、要領を得ない回答だった。
韓国政府は「遺族の不満を聞いたことがない」
同じく理事(任期満了で現在は退任)を務めたチェ・ポンテ弁護士は、再び日韓基本条約を否定するような意見を口にした。
「そもそも被害者に対して賠償責任があるのは加害者です。日本政府や日本企業に賠償責任がある。韓国政府は1965年当時、韓日協定を誤って結んだ。日本の政府と企業の責任が免除され、韓国政府や企業がひたすら責任を負わなければならないというのは、非常に危険で誤った論理です」
“ジャンヌダルク”と称されるイ・ヒジャ氏もチェ・ポンテ氏も自らの正当性を口にするが、請求権資金の問題には目を向けようとせずに、二重取りの形で日本企業から補償金を取ろうと裁判を起こしているわけだから、その論理は無茶苦茶であるとしか言いようがない。
では何の為に財団を設立したのか。ポスコ広報(海外担当)に聞いたが、「財団はポスコで作ったものではない。ポスコは100億ウォンを寄付しただけ。財団は、行政安全部が作ったものです」と、責任を回避するような答えだった。
韓国政府行政安全部の対日抗争期強制動員被害支援課はこう答えた。
「政府の『強制動員被害真相糾明委員会』が、法律によって、被害者に一次的に補償はしてやった。2015年末までこの委員会は存続して被害者の申請を受け、補償をした。(いまの)財団は、補償のための財団ではない。慰霊事業や調査研究事業、追悼事業などを行う財団だ。私たちは遺族とよく会っているが、そういう不満を聞いたことがない」