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 そして思う。意外と、いつ恋に落ちたかなんて、傍から見てるとわかんないもんである。

原作ファンにとって衝撃のキャスティングだった「小日向さん」

 と、長い前置きを述べたところで、『きのう何食べた?』のドラマ版の話をしよう。

 よしながふみさんの原作『きのう何食べた?』(1~15巻、講談社)のファンからすると、ドラマ化が決定し、次々と出演俳優が発表されたとき、一番驚いたのはとあるキャスティングだった。

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 山本耕史さんが、小日向さん!? というその一点である。

小日向大策を演じる山本耕史さん ©文藝春秋

『きのう何食べた?』を知らない方のために説明すると、この漫画およびドラマは、中年男性のゲイカップルの日常を描いた物語だ。筧史朗という料理好きの主人公が、同棲している恋人の矢吹賢二に料理を毎日つくっている場面を中心に、さまざまな人生模様がうつされている。

 物語の中には、主人公のふたり以外にもゲイカップルが登場する。それが、「小日向さん」こと小日向大策(ドラマ版は山本耕史が演じている)と、「ジルベール」こと井上航(ドラマ版では磯村勇斗が演じている)のカップルである。

 なぜ井上航が「ジルベール」と呼ばれているのかといえば、年上の恋人である小日向さんが筧に航のことを説明する際「ビジュアルはジルベールみたいな美少年をイメージして下さい」と言ったからである。ちなみにジルベールというのは、かの美しいBL漫画『風と木の詩』(竹宮恵子、小学館)に登場する美少年のことである(しかし小日向は航のことをジルベールと思っているものの、実際に筧たちの前に登場したのは髭の生えた男性であった)。

「ジルベール」こと井上航を演じる磯村勇斗さん ©時事通信社

「山本耕史はクマじゃないでしょ!」

 ドラマの中では、ジルベールと呼ばれる井上航のビジュアルに焦点が当てられているのだが……私たち原作ファンは、むしろ小日向大策のほうが驚かされた。

 なぜかといえば、原作のなかでは「小日向さん」はガタイのいいクマのような風貌で、筧いわく「ゲイにモテる」タイプの容姿として描かれているからだ。

 しかしドラマ版の小日向は、お世辞にもクマとは言い難い山本耕史というキャスティング。

 ネットにも、「えーなんで山本耕史!? クマじゃないでしょ絶対!」という声が上がっていた。とくに『きのう何食べた?』の他のキャラクターは、主人公カップルをはじめとして、漫画の容姿をそのままテレビ画面にうつしたようなキャスティングばかりだったからだ。

……が、しかし。実際の放映を見てみると、『きのう何食べた?』スタッフが、小日向に山本耕史をキャスティングする理由がわかる。