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「いいとも!」の前説でタモリさんに一度だけ褒められた理由――岩井ジョニ男の生き方

『幻の哀愁おじさん』岩井ジョニ男インタビュー #1

2019/06/16

genre : エンタメ, 芸能

大切なのは「自分をよく見せようとしない」こと

ジョニ男 自意識について、これもタモリさんから学んだことですが「自分をよく見せようとしない」こと。絵でも字でも、よく見せようとしているものほどひどいものはないと。その最たるものが、結婚式のスピーチだって。普段は後輩に「おい田中。なにやってんだバカヤロウ!」って怒鳴ってるのにスピーチでは「えー、田中君、ミチコさん」とかやるわけでしょ。しかもそれは結婚する本人じゃなくて、親族とかに向けてやってる。「あのスピーチが一番よくない、結婚しているこいつにやるのがいいのに、みんな違う方にやってしまうんだ」と。よく見せようとしてる、自分を。

——ああ、なるほど。

 

ジョニ男 ただその意味はずーっとわからなかった。僕は半年くらい『笑っていいとも!』の前説をやったんですけど、そこでタモリさんに1回だけ褒められたことがあるんです。それというのが、二日酔いでやる気もなくて「まぁみんな好きな人が出てきたら喜ぶだろ」くらいの回。タモリさんが出てきたらこう、SMAPの中居君が出てきたらこう、とかすごい適当にやったんですよ。それで戻って、本番20秒前くらいのタイミングでね、タモリさんに「ありがとうございました」って言ったら、「今日よかったよ」って言われたの。

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——なぜ??

ジョニ男 その時の俺には全然わからなかった。でも後から「あっそうだ」「俺よく見せようとしてたんだ」って。それをやらなかったのはあの1日だけ。半年間で1回だけよく見せないというか、二日酔いのままやってしまった。いつもは「さぁーみなさまー」「おまたせしましたー!」「はいどうも~」なんてやってたんでしょう。それに気づくのに10年かかりましたよ。

「今は緊張してタモリさんに会えなくなっちゃった」

——それも「目の前の人を笑わせる」に近い感覚ですよね。遠くの大勢ではなく。

ジョニ男 そうです。遠くの大勢を考えると、たぶん普段よりよく見せようとしちゃう。「ベストを尽くす」じゃなくて「普段の自分じゃない自分を見せようとする」というか。飾っちゃってるんでしょうね。その辺がこざかしいという風に映るんじゃないですかね、タモリさんには。お前そんなやつか?っていう。

——そういう方が長くテレビの中心にいたというのがすごい。

 

ジョニ男 (付き人を)やめてから何年も経つんですけども、逆に今は緊張して会えなくなっちゃったんですよ。あんなに毎日のように酒を飲んでタモリさんに色んな質問をしてたのに、今改めて「あぁ、あの時はこのことを言ってたんだな」とか、気づいてしまって。

——気軽に飲めなくなってしまった……。

ジョニ男 20代でわからなかったすごさがわかってからは、緊張して全く会えなくなっちゃったんです。「わかんない」っていいですね……。

——「わからない」強みは、確かにありますね。

ジョニ男 若さってそれですよ。だからそれでいいんですよ。あんな図々しくタモリさんに「タモリさん今日も飲みましょうよ」なんて言っちゃって。タモリさんも「あぁいいよー」「お前は時間大丈夫なのか?」なんてやってたのが、今はもうインターホン押す手が震えるぐらい。だから若い時はなんでも勢いでいった方がいいです。
#2に続く)

写真=榎本麻美/文藝春秋

幻の哀愁おじさん

岩井 ジョニ男

文藝春秋

2019年4月23日 発売

「いいとも!」の前説でタモリさんに一度だけ褒められた理由――岩井ジョニ男の生き方

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