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35歳女性の私が、大腸がんだと分かったあとに「受精卵」を凍結するまで

2019/06/06
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妊婦を見て号泣。全然諦めきれていなかった自分に遭遇

 そうしてなんとか心のざわつきを収めつつあったある日、街で妊婦さんを見た途端、涙がドバドバ溢れてきました。

 適当に不妊治療をしていたかつての自分は、選べる自由を手にしていたことがどんなに幸せか、まったくわかっていなかったと感じました。

 その日から、気づけば自分の使う抗がん剤の副作用を薬剤師に尋ねまくり、臨床心理士に電話で泣きつき、がん治療と生殖医療の両方に通じている医者を探す日々。諦めたはずが、体は勝手に行動していました。

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 最終的には夫からの「それをお守りにすればいいじゃん」という一言が後押しになり、結局、採卵に踏み切ることに。

受精卵凍結を決めた夫婦のLINEトーク画面

 慌てて病院へ駆け込んだのは、暮れも押し詰まる12月21日。その日から毎日3時間かけて排卵誘発剤の注射を打ちに病院へ通い、12月29日に採卵。31日に受精卵完成という無茶苦茶なスケジュールで卵ミッションは幕を閉じたのでした。

 ちなみに、「無月経&排卵障害のなか、数週間で卵をとるのは難しいのでは?」という私の考えは間違っていたようで、排卵誘発剤を使うことで12個の卵をとってもらうことができました。

 また懸念していた授乳に関しては、術後の傷の痛みに耐えられず、あっさり断乳。入院期間中、強制的におっぱいと離れたこともあり、母子ともに悲壮感なく乳とさよならできたのでした。

©iStock.com

 そしてすべてを終えて抗がん剤治療をしている今、気持ちは非常に穏やかです。

 できてもできなくても、もういいや。

 あのとき妊婦さんを見て落涙し、体が動いてしまったこと。自分はそれに従うしかなかったのだと思います。

 そして、勝手な素人考えでうじうじと悩み、時間がなくなってしまうのがなによりもったいないこと。それが今回の学びでした。

 なのでもし今、子作りのことでもやもやしている方がいたら、一刻も早く病院へ駆け込んでほしいと思います。その衝動を、全力で応援しています。

35歳女性の私が、大腸がんだと分かったあとに「受精卵」を凍結するまで

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