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川崎の人妻からバファローズファンの大学教授へ ベイスターズの魅力を教えます

文春野球コラム ペナントレース2019【対戦テーマ:推し球団プレゼン大会】

2019/06/04

 先生。川崎のヤング主婦代表、西澤です。昨年に引き続き、また先生との対戦が実現しましたこと、大変光栄に思っております。

 今ここに、出会うはずのない平凡な主婦と高名な大学教授が、その熱い胸のうちを言葉にして送り合う。これはまさに文春野球版ハーレクインロマンス、コバルト文庫、魔法のiらんど。しかし残念ながら、我々が叶わぬ思いを抱く相手は、もっと広く大きく果てしないんですよね。Ahオリックスバファローズ。Oh Wow Wow横浜ベイスターズ。「どこの球団が好きなの?」「オリックス」「ああ……」「ベイスターズ」「おお……」。両球団とも簡単には言葉にできない魅力に溢れるあまり、人類ができることといったら、そう、感嘆詞を吐くことくらい。おそらくですが、これはさだまさしが『北の国から』を作った時と同じ感覚です。

波乱万丈なベイスターズとオリックス

 まだ肌が水を弾く頃にファンとなり幾年月、そしてなんの因果かベイスターズのコラムを書くようになって3年が経ちました。ベイスターズというこの「概念」を何とか言葉にしようと、時に謎の人妻となり、時にスナックのママとなり、ねこになって悲しみの鳴き声をあげてみたり、エレベーターに乗ってみたり、最近では「お母さん」にもなりました。しかし、まだ私にはベイスターズの本当の姿が分からない。なぜ私はベイスターズファンなのか。ベイスターズの魅力とは一体何なのか。

 プロスポーツですので、もちろん目的は「勝利」であり、「優勝」です。そこに向かって戦う選手を応援するのがファンなのだと思います。しかしそのチームが「勝利」や「優勝」と一定の距離を取るようになるとどうでしょう。ファンは一つの生存戦略として、全く異なる価値観やアイデンティティをそこに見出すようになります。ベイスターズをよく知る友人が繰り返し言うのです。「俺たちは丹波の黒豆職人なんだ」と。「同じように見える黒豆の中から、ひときわ光り輝く黒を見つけ出す」。「負けたけど今日も下園は選球眼が冴えていた」と、深く頷くのです。

 先生、でも私たちは勝利を放棄しているわけじゃない。何かのお墨付きを得たかのように「ベイスターズならバカにしてもいい」という野球ファンたちの共通認識に、いつだって傷ついてきました。今年こそ、今年こそ……と思いながら、蝉の声を待たずに静かに終わっていくシーズン。こんなんじゃないんですよ、ほんとのベイスターズは。打てば止まらないマシンガン打線、守れば内野全員GG、ハマの大魔神が出る頃には、諦めて帰り支度を始める相手チームのファンたち。今だって、筒香がいてロペスがいて宮﨑がいてソトがいて、鳥になった今永、ドラ1上茶谷も踏ん張り、小さな大魔神ヤスアキが控える。なのにどうしてですか。どうして5位なんですか(※6月4日現在中日と同率4位)。

 でもね、息子は……中学3年生になるベイスターズファンの息子はあっさりと言うんです。「他のチームって強いじゃん、ベイスターズより。だけどたまに逆転とかするじゃん。それが好き」って。こっちはもう何十年もベイスターズという存在に対して悶々としているというのに、こんなさっぱりと。若いって、いいですね。ちなみにこの子が最初に好きになったのは、オリックスなんですよ。伊藤光の応援歌が世界で一番かっこいいと、よく口ずさんでいました。「だって、ベイスターズとオリックスってなんか似てね?」「なんかさ、波乱万丈のところが」。

6月1日のヤクルト戦、完封勝利を挙げたドラ1・上茶谷大河と抱き合う伊藤光

 波乱万丈か……と私は思いました。波乱万丈なベイスターズ、そしてオリックス。世の中は常に争いや諍いに満ちています。なんかよくわからんやつに絡まれている先生のアカウントを見るたびに、そう思います。よくわからない采配も、正直あります。大丈夫? その投手、昨日も一昨日も投げてるけど大丈夫? なぜそこでキャッチャー替えたの? そこ本来のポジションじゃないけど承知? わからない、私にはわからないことがたくさんあります。負けが込んでくると、より一層それは浮き彫りになる。