心に立てた真っ赤な火柱が、今にも消えてしまいそうだった。グラウンドにいると、スタンドの声が嫌でも耳に入った。「外れドラ1~」。球場を離れ、スマートフォンで自分の記事を目にすると、関連ワードの最上位には「戦力外」。「生きるか死ぬか。そういう世界ですから、全て真正面から受け止めてやるだけです」。本人は必死に雪辱の炎を燃やしたが、プロ野球界からは完全に忘れ去られていた。

フラッシュバックしたレジェンドの自伝に書かれていた一言

 5月頭。4年目にして初めて中継ぎで開幕1軍の座を射止めたものの、チーム事情で出場選手登録を抹消された。「このままではダメです。状態を上げるとかどうこうでなく、生まれ変わるぐらいの気持ちじゃないと」。今季の投球に一定の手応えを感じてはいたが、もう一度、全てイチから見つめ直したのは直球だった。「バッターって手が伸びるところで打ちたいじゃないですか。だから、詰まらせたいんです。数ミリでもいいので」。打者が一番気持ち良くスイングでき、最もバットからボールに力が伝えられる場所でミートさせない。速球で押し込む。そんなパワーピッチャーを思い浮かべた時、ピッタリと当てはまったのがドミニカの豪腕だった。

 元レッドソックスでサイ・ヤング賞3度のペドロ・マルティネス。自分と同じ180センチ程度の身長でありながら160キロのストレートでメジャーの強打者をなぎ倒した、中学時代からのあこがれだった。そんな野球少年時代に読んだレジェンドの自伝に書かれていた一言がフラッシュバックした。

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「投げるって感覚でなく、パンチを打つイメージだよ」

 へえ~、とただ目を輝かせていたあの頃とは違う。同じプロの世界に身を置いた今、言葉の意味を読み解くと目からうろこだった。大きなヒントを得た瞬間だった。すぐに動画で投球フォームを凝視。自分なりの解釈にたどり着いた。

「投げるって感覚でなく、キャッチャーミットに右腕ごとぶっ放す、感じです」

 通常、ボールを投げるといえば、テークバックし、腕を回しながら高い位置にボールを持っていき、スナップを利かせてリリースする。足を上げてから、この一つ一つの動作をつなぎ合わせていく感覚ではなく「ボールを離すところまでの間を省いて、一気に。最後だけパチーンって腕をぶっ放す」という新境地にたどり着いた。言葉だけでは、とても力任せに投げるようにも聞こえるが、この意識でピッチングすると不思議と無駄な力感が消え、効率よくパワーを白球に転化。140キロ前半だった球速が常時140キロ後半を計測し、150キロもマークした。「今までの野球人生の中で一番いいかもしれません」と再昇格を果たすと5月21日のDeNA戦で5回途中から中継ぎ登板し、1回2/3を3安打1失点。プロ4年目で、長く遠かった初勝利をもぎ取った。