『笑点』の大喜利で「あいうえお作文」というのをやっているのを観たことがある方は多いだろう。「あいうえお」だったり「ありがとう」だったりまあ色々だけれど、ある決まった単語の頭文字を一文字ずつ取ってゆきながら文を作るというもの。『笑点』だとあまり破綻させずにきれいな作文にまとめようとしてしまうけれど、「いしていると」「ったとしても」の後に「クライナ帰りだから」くらいの飛び道具を放り込んで次の人を困らせてしまおうとするタイプのほうが、個人的には好みである。あいうえお作文にしても謎かけにしても、「うまい」って言われることを目指したネタって、小さくまとまっていてつまらないと感じてしまう。脳内麻薬が出て来ないっていうか。

 さて、「あいうえお作文」のように頭文字だけを先に決めてから作文してゆく言葉遊びが、今回のお題。英語でいうところのアクロスティック。アクロバティックではない。いつか言葉遊びマニアだけを集めて草野球チームを結成したら、チーム名は「オークランド・アクロスティックス」にするつもりである。もっともわざわざ小難しい英語を使わなくても、日本語にだって同様の遊びは昔からある。電子掲示板のお遊びとしてもよく使われる「縦読み」なんてまさにそうだ。長々と書かれた横書きの文章の、縦の一字だけ取ると別の言葉が浮き上がるというやつ。みんなそういう言葉遊びは大好きなのだ。私の住んでいる北海道の新聞は北海道日本ハムファイターズの試合の放送があるとき、テレビ欄の番組紹介文のところでやたらとこの縦読みを盛り込みたがる。2013年6月12日の番組紹介文はこうだった。

▽水曜日はブラボー!
北海道の熱い観衆の目
の前での快勝が見たい
大谷の出番はあるか?
地元・札幌で魅せろ!
でるか?中田の一発!
虎の打線&投手陣を撃
退せよ!打て!佐藤賢
治▽チケットも当たる
▽大宮龍男副音声解説

 左端を一字ずつ取ると「北の大地で虎退治」。相手が阪神タイガースということでこうなったわけである。こういう縦読み遊びがよく日ハム戦の試合放送の紹介文に仕込まれているのだが、私はこの試合のときの文章が一番印象に残っている。「打て!佐藤賢治」にすっかりハートを射抜かれてしまったのだ。なぜかというと、佐藤賢治選手は他に名前の出てくる大谷翔平選手や中田翔選手とは違い、レギュラーでもなんでもない、そもそもこの日試合に出場するかどうかも微妙なランクの選手なのである。文脈の都合上「治」の字が欲しかった、ただそれだけのためにむりやり名前をねじ込まれたのだ。言葉のために現実をねじ曲げてしまうという、ささやかな背徳にも似たその行為に思わずぞくぞくしてしまう。結果からいえば佐藤賢治選手はこの日の試合にちゃんと出場し、タイムリーヒットまで放つ活躍を見せたわけだけれど。言霊ってやつかもしれない。

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「縦読み」(もちろん縦書きの文章の場合は「横読み」になる)はビジュアルに訴えてくるうえにわりと作りやすいので、漫画にもしばしば出て来る。有名なのは『DEATH NOTE』(原作 大場めぐみ/漫画 小畑健)の「えるしつているか 死神は りんごしかたべない」ってやつ。もっとも私は『DEATH NOTE』を読んだことがないので、どういう文脈でこのアクロスティックが出て来たのかわからないんだけど。でも有名な漫画なので、アクロスティックを説明するときの具体例としてちょうどいい。

 私が初めてアクロスティックにあたる言葉遊びを知ったのも漫画だった。『こどものおもちゃ』という少女漫画で、主人公の母親(職業は作家)が執筆したエッセイ集の各章題の頭文字を取ってゆくと「ハハオヤナノリデナサイ」(=母親名乗り出なさい)という文字列が浮かび上がるというもの。実は主人公は捨て子で、拾って育てた母親が実母を探し出すためにこういう仕掛けを作ったのである。漫画ということもあり、その仕掛けが判明してゆくまでのビジュアル的演出が上手でぞくっとした。言葉遊びって「うまい!」と感心させるものじゃなくて、背筋をぞくっとさせるものだと思うんだよね。まあ『こどものおもちゃ』のそのシーンを読んだときは、ぞくっとすると同時に「こんなの普通気付くわけないだろ!」とも感じたわけだが。

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