――著書『勉強の哲学』が「東大・京大で一番読まれた本」になった哲学者の千葉雅也さん。本の刊行からまもなく、大学の学外研究(サバティカル)制度を利用して、アメリカに4ヶ月ほど滞在した。ボストンのハーヴァード大学ライシャワー日本研究所を拠点に、ニューヨーク、マイアミ、ロサンゼルスへ。初めて踏んだアメリカの地での紀行文は、ツイートが元になっている。最新刊『アメリカ紀行』はどのように書かれたのか?

ハーバード大学のライシャワー日本研究所に客員研究員として滞在

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「書くことのハードルを下げたかったんです」

千葉 せっかく初めてアメリカに行くので、行く前から、サバティカルの間のことを何か本にできないかな、と思っていたんですね。行っている間に積極的にツイートをして、それを素材に何か書くことをできないだろうか、と。というのも、この中でも書いてるんですが、僕にとっては書くことのハードルを自分自身でどう下げるかが数年来のテーマだったんです。最初から高い完成度のものを目指してしまって書くのが遅くなり、スランプになっていて、アメリカに行く時期というのは、まさにそこからどう抜け出すかが問題になっていた。自分にとって書くことがあまりにハードルの高いものになりすぎていたならば、「書かないで書く」とでもいうようなことをできないか、まるで書いていないようなラフさで書くことができないだろうか、と。ツイッターのようにノンシャランに思いついて書くというのをどうやってちゃんとした仕事につなげられるか、その方法論を探していたんです。

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 もうひとつの背景としては、単純に言って、文学をやりたかったことがあります。もともと僕は稲垣足穂が好きで、批評的な仕事を志すきっかけが足穂の「エッセイ的小説、小説的エッセイ」でした。『一千一秒物語』のようなナンセンスなものを含みながらも、あるスピード感で物事を切り取るような足穂の言葉との関わり方には、強く影響を受けてきたんです。その意味で僕にとってツイッターっていうものは足穂的なもので、ではそこからどうやって具体的な文学へと発展させられるだろうか、ということがテーマでもあったんですね。