昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2019/06/13

フリマアプリを発想するきっかけになったボリビアの旅

 ボリビアではウユニ塩湖を経由してチリに抜けるツアーに参加した。チャーターしたトラックを運転するガイドの男性が5歳くらいの子供を連れていた。インドのバラナシでは鉄道駅で子供たちが必死にチャイを売り、他方では物乞いをしていた。

「意外と人間って生まれた国や環境に縛られてしまうんだな」「自分はこんなに恵まれているのに何もしないのか」――。

©文藝春秋

 山田の中に燻っていた何かが弾けた。旅を終え、日本に帰ると、スマホで簡単にモノを売り買いできるフリマアプリが注目されていた。

「旅で出会ったような人たちがどうすれば豊かになるんだろうな、っていうのは帰国してからも結構考えていて。そういう中でフリマアプリを見た時、これこそ新興国にあったらめっちゃ便利じゃん! ってすごく思ったのを覚えています」

 帰国から4カ月後に会社を設立し、その5カ月後には最初のアプリを配信。それが、今のメルカリである。

©文藝春秋

人を惹き付ける特殊能力

 かつて熱狂の渦にいたベンチャー群とは何が違うのか。なぜ、時間がかかったのか。山田に聞いた。

「起業ありきじゃなくて、やりたいことをやるために起業するみたいな逆算なんですよね。そこは結構違いを感じているというか、時間がかかった要因なのかなと」

「リーダーシップやマネジメントも、会社経営と大学のサークルとでは話が違いますよね。もっと上手くやりたかったけれど、先輩たちほど才能もセンスもないので、自分のスタイルを確立するまで時間がかかっちゃったという」

©文藝春秋

 だが、それで良かった。

 かつてのネットベンチャーの先達は世界への挑戦権を失い、今はメルカリが国産サービスの急先鋒となっている。時価総額も、多くのベンチャーを抜き去った。

 山田は周囲に踊らされず、焦らず、マイペースで自らの山を見つける旅に出かけることができた。理想的なビジネスや組織作りに拘泥することができたのだ。

 凡人の自覚とルサンチマンからの脱却は、山田にある能力ももたらした。博報堂DYホールディングスの子会社、アイレップで取締役CMOを務め、大学時代から山田と交流のある北爪宏彰は、山田をこう評する。

「進太郎は人を惹き付ける特殊能力があるからなぁ」

 極めて頭脳明晰で切れ味が鋭いタイプでも、カリスマ性が備わっていたわけでもない。だが、彼の周囲にはいつも優秀でモチベーションの高い人間が取り巻いている。その不思議さを表現した言葉だ。

©文藝春秋

「進太郎は自分より優秀な部分がある人を遠慮なく誘う。ある種、無私というか、私心がないというか。だから惹かれちゃうんですかね」

 そう見立てる前出の矢嶋自身も、特殊能力にほだされた一人だ。