2017年11月、東京・恵比寿の居酒屋で筆者は、メルカリの創業者で会長兼CEO(最高経営責任者)の山田進太郎(41)と対峙していた。

山田進太郎 ©文藝春秋

 その会食から約7カ月後の2018年6月、メルカリは東証マザーズに上場し、7000億円超もの時価総額を記録することになる。だが、会食をした当時は上場に暗雲が立ちこめていた。会食の主題は、その要因だった。

「メルカリで『現金』が売られている。しかも額面より高い。どういうこと?」

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 2017年4月22日、ツイッターでつぶやかれたその投稿は、瞬く間にネットで拡散した。確かにメルカリを検索すると、1万円札の写真がずらりと並び、例えば1万円札が5枚の出品に対して「5万9500円」の値が付けられ、それを誰かが実際に買っていた。

 

 数日も経つと、テレビが騒動を嗅ぎつけ、連日、現金を販売するメルカリの画面が、ニュースやワイドショーに映し出された。

 実態は消費者金融に近い話で、クレジットカードのショッピング枠などを使い現金をすぐに手に入れたい輩を狙った新手のビジネス。メルカリは利用規約に抵触するとして出品削除などの対応に追われたが、その後も現金がチャージされた「Suica」が相次ぎ出品されるなど、騒動はしばらく尾を引いた。

「まずは食事でも」

 夏には、盗品や違法コピーの出品も取り沙汰され、メルカリにとって2017年は受難の年となった。

 騒動以降、山田が正面を切って答えたインタビューはない。交渉を申し出ると、意外なことに「まずは食事でも」と誘われた。懐柔されてなるかと構えて臨んだのだが、眼前に現れた山田はこちらが拍子抜けするほどリラックスしていた。

©文藝春秋

 メルカリの責任追及を避けるわけにはいかない。その覚悟で辛辣な質問も浴びせたが、山田は驚くほど真摯に反省の言葉を口にした。「なぜ起きたのか?」「どうするのか?」と質問を畳み掛けるが、いずれも冷静に論理的に返してくる。

 そこにいたのは威圧感のあるカリスマ経営者ではなく、意外にも朴訥で常識的な“大人”の男だった。その時からずっと引っかかっていたことがある。

普通じゃないことを成し遂げながら自らを「凡人」と評する

 今や押しも押されもせぬ日本のベンチャーの星。どう考えても普通じゃないことを成し遂げ、どのネット企業の先達も敗れ去った米国市場へと果敢に挑み、最近では「メルペイ」でキャッシュレス決済市場へも参入している。企業内の標語「GO BOLD(大胆にやろう)」を地で行く急成長。だが、当の本人は自分を「凡人」と言い、「保守的ですよ」と評する。

©文藝春秋

 山田とメルカリという会社のあいだにあるアンビバレント。山田やメルカリのサクセスストーリーは何本か描いてきたが、その違和感に向き合ったことはない。

 山田進太郎という人間がどう形成されていったのか。これは徹底的に遡るしかない。