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SNSを使うための“筋肉”

 自らの無為を恥じるともに、山本とインターネットの関わり方に、興味を抱いた。山本に取材を申し込むと、同じ大学に通う高橋亜咲、辻岡涼、金子理らとともに集まってくれた。実は、山本は「Change.org」に抗議の意志を書き込む前に、高橋たちにその内容を見せて、これで自分の思いが伝わるのか、どんな反応が予想できるのか、相談していたという。

 日頃から共感した出来事や、「おかしい」と思うニュースをSNSでシェアしているという彼らは、なぜ「おかしい」と思うのか、友人の意見をフィードバックしてもらうことで、自分の感触を確かめてきた。そんな友人同士の狭い世界で、意見を交換し合っても視野は広がらないと、大人は感じるかも知れないが、例えば、山本がFacebookで繋がった友人は世界中に広がり、その数は2200人を超えている。Twitterでも不特定多数のユーザーと自由に議論を交わし、論戦にも応じている。

 彼らはSNSを使いこなしているというレベルではなく、SNSを使うための“筋肉”が鍛えられているように感じられた。

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左から順に山本和奈、高橋亜咲、辻岡涼 ©NHK

 山本とSNSの出会いは中学生の時。Facebookに毎日のように日々の出来事を写真付きでアップして、新たなコミュニケーションツールを楽しんでいた。他人の生活がありありと表示されるSNSを気にしすぎてしまい、他人の目を意識し過ぎて、自分を見失うこともあったという。

ネット上に蔓延る匿名には信憑性がない

 高校では、インターネット上で行われるいじめ、「サイバーブリング」に直面する。Ask.fm(アスク・エフエム)というQ&Aサイトを巡って、山本が通っていたアメリカンスクールの生徒が自殺未遂に及んだのだ。自らのページを作成すると、ユーザーから質問やコメントが届くサービスだが、匿名でも書き込みができるため、それが誹謗中傷を誘発させていったという。

 欧米の10代の若者に人気を博していたAsk.fmでは、誹謗中傷を苦にして自殺するケースが相次ぎ、利用を禁止する高校もあったが、山本の高校では、「サイバーブリング」について学ぶための多くの機会が与えられた。ネット上に蔓延る匿名の怖さを体験した山本は、同時に匿名には信憑性がないことも痛感したという。

©iStock.com

「匿名の誹謗中傷ならば、恐くて対面じゃ言えないんだから、真面目に受け止めなくていいって思えたんです」

 大切なことは実名で、Face to Faceでなければ伝わらない。こうした体験が編集部との対話を後押ししていた。週刊誌の記事に抗議の声を上げたときにも、匿名の誹謗中傷は止まらなかったが、山本は意に介さなかった。例えば、山本はノースリーブのトップスを着て、編集部との対談に臨んだが、「そんな肌を露出して性の問題を語っても説得力がない」などと見た目に関する批判が相次いだ。しかし、山本は冷静にこう分析していた。

「着ている服によってしかその人を判断できないのは、女性を“道具”として見ている証だし、日本の社会では、そういう感覚が無意識に刷り込まれている」