SNSに疲労したときは「インスタブレイク」
山本たちは、「フィルターバブル」や「フェイクニュース」など、インターネットの負の側面に対しても免疫があるようだった。彼らは、フィルターバブルによって、間違った情報が自分の考えを変えてしまうことを認識し、その間違った情報を拡散してしまう怖さを感覚的に理解していた。そのため、SNSでシェアされたニュースを読むときには、「PolitiFact」という政治にまつわる発言・声明の信憑性をファクトチェックするアメリカのサイトなどを利用して、確認するという。「インターネットから情報を得る際には、自分でチェックする責任がある」と教えてくれた。
ときどきインターネットから離れることも大切なのだという。食事中にもスマートフォンを手放せなかったり、友人への返信に追われたりして、SNSに疲労したと感じるときには、「インスタブレイク」などと宣言して、2、3日、インターネットから完全に離脱する。そうやって現実とネット空間との間で、自己のバランスを保つことで、Face to Faceで対話する価値を見いだしてきたのだ。
どんな社会にしていきたいか
山本は、社会で声を上げることができない人々と連携していきたいと、仲間たちとともに「Voice Up Japan」というNPOを立ち上げた。性的暴行で5回逮捕されるも不起訴になった慶応大生のケースを問題視したり、同意のない性的行為はすべて性暴力だと「性的同意」の必要性を訴えたりしている。
こうした「性暴力」やセクハラは、マスメディアの内部にも蔓延する問題で、取り上げることを躊躇してきた面がある。変貌する情報空間の中で生き残りをかけて頑なになるマスメディアを余所に、山本たちは“個人”として、しなやかに発信を続けていた。
取材の終わりに、マスメディアについてどう思うのか、聞いた。
「期待できないと思ったことはないです。もっと報道したりフォーカスしたりする力があるはずだから。逆に、それをしてないと少し悲しくなります」
新元号が発表された日、渋谷の街では、新しい時代が訪れると大騒ぎしながら情報発信する人々であふれかえっていた。そのとき、山本は中南米のペルーにいた。教育格差の是正に取り組むNGO「Educate For」の活動について、支援の輪を広げようと情報発信を続けていた。
これからどんな社会にしていきたいかと尋ねると、具体的な社会のあり方には触れずに、「どのような社会にしていくのか個人個人が考えて、それを実現させられるような社会になったらいい」と語った。それはまさしく、“個人”が主役となったインターネットの理想的な着眼だった。
(文中敬称略)
INFORMATION
平成史スクープドキュメント 第8回
情報革命 ふたりの軌跡~インターネットは何を変えたか~
https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20190428