このところ「文春オンライン」の取材で“終着駅”ばかりに行っている。国府津、小手指、南栗橋……。関西でも網干や日根野を訪れた。どの駅も線路の果てという意味での“終着”ではなくて、単に終点の電車がたくさん走っているだけではあるのだが、まあいずれにしてものどかな駅ばかりであった。都心から離れた郊外の駅だから当たり前ではあるが、なにか物珍しいものがあるわけでもなく、基本的には“なにもない終着駅”である。
ではその真逆、都会の真ん中に近い駅にはそんなのどかな駅はないのだろうか。いくらなんでもさすがに山手線のど真ん中にあっていくつもの地下鉄が乗り入れるような駅はのどかさとは無縁だろうが、ギリギリ山手線の外側にちょっと出たくらいの場所ならば、のどかで緩やかな時が流れる駅があるのでは……。
というわけで、今回は「新・3大都会の秘境駅」と題して、郊外に伸びる私鉄路線の駅のうち、山手線のターミナルから1駅だけ先にある牧歌的な駅を訪ねることにしよう。
池袋駅北口とは別世界の「北池袋駅」
最初に訪れたのは、東武東上線の北池袋駅。その名の通り、池袋の北にある駅だ。池袋を出発した東上線の電車はしばらくJR埼京線と並んで走って首都高池袋線をくぐる。その少し先で東上線は埼京線と分かれて西を目指すのだが、その直前に北池袋駅がある。
北池袋駅、もちろん停まるのは各駅停車だけ。隣に埼京線の線路も通っているので一見騒々しいが、島式ホーム1面2線の小さな駅だ。西側に建っているこぶりな駅舎とは線路の下をくぐる地下通路で結ばれている。その改札口を出ると、そこはもう、“池袋”のイメージとはまったく違う町であった。
駅前は、昼間にはやっているのかどうか窺い知れない小さなスナックや飲食店が立ち並ぶ商店街(のようなもの)。少し西に足を伸ばせば、近くに高校があるらしく帰宅途中の高校生たち。彼らの賑やかな話し声と時折自転車で行き交う地元の人の姿。池袋駅北口は風俗店やキャバクラが集まる猥雑な街なのに、北池袋駅はうってかわってのどかな町である。
で、タクシーやバスが客待ちをするようなロータリーの代わりに駅前にあるのが大きな踏切。改札口を出てすぐの場所に線路をまたぐ踏切があって、これがなかなかのくせ者なのだ。東上線だけでなく埼京線も通るおかげで、一度踏切が閉じるといつになっても遮断器が上がらないのである。つまりは“開かずの踏切”というわけだ(歩行者のために地下通路も並行して設けられている)。「長いなあと思うし、事故もあったりするから危ないですけど、まあしょうがないですね」とは小さな子連れのお母さん。こう書くと不便に感じるけれど、改札口を出てすぐに踏切があって高校生や地元の人が行き交う生活道路と直結しているあたりも、“郊外”の雰囲気そのものであった。