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「天安門30周年」直前にツイッターが凍結された中国ライターの顛末

2019/06/10
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SNSを人質に取れば、相当な言論の統制が可能

 凍結の打撃が大きい以上、いちど体験するとこれを忌避したくなる。

 例えば、今回の件の黒幕が本当に中国当局だったのかはさておき、その可能性が一定程度まで存在する以上は、中国に対して不都合な言動は今後可能な限り控えよう――などという心理だって生まれなくもない。ジャーナリズムの矜持は大事かもしれないが、それ以前にメシが食えなくてはどうしようもないからだ。

 これは中国を批判する言動だけに限らない。悪意のある人間が何人か集まったり、特定の技術を持っていたりすれば、SNSの凍結は簡単にできてしまう。それならば、「めんどくさそう」に見える人たちを怒らせるようなことは言わぬが花とはならないか

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 中国についてはもちろん、自国の安倍政権の批判も、逆に反政権デモをおこなうような人たちの批判もやめておいたほうが安全だ。待機児童問題や年金問題のような社会矛盾に文句を言う行為だって、誰の悪意のスイッチを押すことになるかわからない。歴史修正主義的なトンデモ本を論評するのも、凄惨な事件が発生したときに世論の怒りの方向と逆のこと(犯人の背景を思いやるなど)を言うのも自粛しよう――。

 これは極端な話だが、誰かの気分を害するかもしれない刺激的な意見を、なんとなく言いにくいと思えるようになることは事実である。

 昨今の日本で、ツイッターはすでに社会インフラになっており、言論のプラットフォームでもある。だが、実はそのシステムはおそろしく脆弱だ。SNSを人質に取れば、相当な部分で言論の統制が可能になる。今回の大量凍結事件に中国が関与した証拠はないとはいえ、事実として中国は、彼らの国内においてこの手法で言論統制に成功している。

 今回の一件からは、単なる初夏の椿事として片付けられない不気味な予感も覚えてしまうのだ。

「天安門30周年」直前にツイッターが凍結された中国ライターの顛末

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