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 福田氏は、大学を卒業後、ジョンズホプキンス大学高等国際関係学研究所の研究員を経て、三菱商事に就職。「24時間タタカエマスカ」と言われた時代に、11年間のサラリーマン生活を経験した。

「会社員時代なら、仕事の役割やノルマなどがあって、それに向かって自分の時間をどのように使って結果を出すか、という流れがありますよね。だからオヤジに『官房長官秘書官としての僕の仕事は何なのか』と聞いたら、『全部だ』と一喝されたんです。『見て憶えろ』『必要なことが必要なんだ』とも言われて、非常に戸惑いました(笑)。本作で、次男の晄司が、父・清治郎に求められたことと似ています。私も晄司と一緒で、『政治から距離を置こう』と考えていたこともあって、彼には共感できる部分が多い。

 小学校のころに、祖父・福田赳夫が総理大臣をしていて、『政治と金』の問題に抗っていたのですが、子供から見れば、政治家の仕事のイメージは”いっしょくた”ですからね。政治とは距離を置いて商社で働いていた僕が今、こうして衆議院議員を務めているんですから、晄司同様、『人生は常に何が起こるかわからない』と思いますね」

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 この小説の独自性は、犯人が「孫娘を救いたければ、『政治家としての罪』を自白しろ!」という脅迫手法だ。

 この辺りは、当選3回を重ねた現役の衆議院議員としてはどう読んだのだろうか。

「『政治家としての罪』ですか……。宇田一族の政治手法は、ずいぶん『昭和的』だなぁと思いました(笑)。実は、オヤジや私にもない部分なんですよね。

 宇田一族の手法が昭和的と申し上げたのは、かつての政治の世界は、与野党ともに『できます競争』をしていたと思うんです。国政の仕事の範疇ではないことについて、または、本当は実現できないことであっても、選挙のために有権者に『できます』と言い続けた政治が、かつては存在していた気がします。

 幸い、私は今、有権者に嘘をつかずに選挙を戦えています。そうではない、『権力の階段を上るためなら手を汚すことも厭わない』という政治家が真保さんならでの筆致で、リアリティをもって描かれているのを読んで、『こういう世界もあるのかなぁ』と感じながら楽しませていただきました。