総理がらみの疑惑の渦中にある代議士の孫が誘拐された! 犯人の要求は前代未聞――「罪の自白」というものだった。

 政界を舞台にした誘拐サスペンスである真保裕一氏の最新刊『おまえの罪を自白しろ』の魅力を、総理大臣経験者を父と祖父に持つ若手代議士で、政界きっての読書家である福田達夫氏が読み解いてくれた。

「真保さんの小説は昔から好きで、江戸川乱歩賞の受賞作『連鎖』や『ホワイトアウト』も愛読していました。どの小説でも、知らない職業のはずなのに、圧倒的リアリティで伝わってくるんです。『連鎖』の主人公は(当時厚生省の)元・食品衛生監視員で、汚染食品の横流しの真相を究明しようとする。私は今、自民党の農林・食料戦略調査会で、農産物輸出促進対策委員長をしているのですが、改めて感じるのは、真保さんの小説に描かれた『現場感』のすごさです。食品検査官の思考がどうしてここまでわかるのか、と。

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©文藝春秋

 今作の『おまえの罪を自白しろ』は政界が舞台です。この人物造形はすごい!と納得できるところと、私の政治スタイルとはまったく違うな、という双方の部分があって、とても楽しむことができましたね」

 衆議院議員の宇田清治郎は、総理がらみの疑惑を野党やメディアから糾弾されていた。そのさなか、3歳の孫娘が誘拐される。犯人の要求はなんと、「罪の自白」。タイムリミットは翌日の午後5時。動機は宇田家への怨恨か、それとも──。

 誘拐事件に巻き込まれた宇田家は、「政治家一家」。長男は埼玉県議。孫娘の母である長女の夫は、中央政界進出を狙って地元の市会議員を務めている。2人は清治郎の地盤を継ぐ強い意思を持っていた。

 一方、次男の晄司は、政治家家業から距離を置きたいと考え、会社を経営していたが失敗し、父・清治郎の秘書になったばかり。

 宇田一族は、それぞれの立場で、この危機に立ち向かおうとしていた。

「私のオヤジである福田康夫は、とてもクールな人で、一族で政治をやるという概念をまったく持っていない人でした。息子にも『政治家という職業は継ぐものではない』と言っていたくらいですから、地盤を必死に継ごうとする宇田家の対極のような一家でしたね。私も政治家になる気はありませんでしたが、小泉純一郎内閣で父が内閣官房長官をしていたときに、秘書官をしていた人が倒れて、私か弟のどちらかが代理として勤めるしかないという状況になったんです。ちょうど担当していた仕事が一区切りしていた私が秘書官をすることになりました。当初は半年間の期間限定の予定で(笑)」