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「真保裕一の最新刊から読み解く、“できる政治家”の条件」――福田達夫インタビュー

source : オール讀物

genre : エンタメ, 読書, 政治

note

 私なりに興味深かったのは、首相官邸や、議員会館が舞台になっていたこともあり、自分の中でリプレイしながら読むことができたことですね。この局面で移動するなら、『裏動線』を使ってこうだな、とか(笑)」

 宇田一族、総理官邸、警察組織――。三者の思惑が入り乱れる中、タイムリミットが迫る。この時限的な要素による緊迫感も、今作の魅力だと福田氏は語る。

「商社時代の経験もあり、仕事柄、なんでも構造的に見てしまうのですが、幼女の誘拐から決着までのわずか数日間という中に、いろんな人の物語を詰め込める、小説的技巧に驚きました。

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 さらには真保さんの小説だから、大どんでん返しがあるはずで、このまま一直線にいくわけはないなぁと予想しながら読んでいました。つまりは、アガサ・クリスティ的に何かが出てくるんじゃないか、と。クリスティっぽいっていうのは、要するに一人一人を掘り下げていくうちに『隠された人間性』が出てくる、と。読み終えた後は、登場人物たちそれぞれの人生が織り込まれた、まさに人生模様だと感じました」

 

 盟友の小泉進次郎氏とともに、「人生100年時代の国家戦略」を提言し、次世代のリーダーとも言われる福田氏。多くの政治家が登場するこの小説において、福田氏が「政治家としての実力」を評価できる人物はいたのだろうか。

「終盤に登場する、ある『新しい政治家』は、永田町でのし上がっていく優秀さを感じましたね。

 政治の世界は、『商品』と言えるような現物がない。だからこそ、独自のビジョンを持てるかどうかが大事なんです。そして自身が描いた絵に対して、どれだけ多くの人の共感を得て、実現に向けて邁進できるか。彼は、その絵を描く力もあると思いました。

 政治の役割の一つに、1億2700万人の意見を一番レベルの高いところで一致させること、という部分があります。右に行きたい、左に行きたいという人たちが議論していても永遠に交わることはありません。その状況で結論を出すとすれば、合理性を超えたところ、つまりは『説得』するのではなくて、『納得』をさせなくてはいけない。

 僕が可能性を感じた『ある人物』は、今の政界で言うと、たとえば、大島理森衆議院議長のような、『あの先生が言うんだったら、振り上げたこぶしをおろすしかねぇなぁ』と、周囲を納得させる深みを持つ人物になると思いました。

 そのあたりの人物造形のリアリティもさすがでしたし、フィクションとして楽しめる部分もあって、とても贅沢なサスペンス小説だと感じました」

福田達夫(ふくだたつお)
1967年生まれ。慶應義塾大学卒業後、米国ジョンズホプキンス大学高等国際関係学研究所を経て、三菱商事へ。退社後、福田康夫内閣で総理大臣政務秘書官を務めた後、2012年12月、衆議院総選挙で初当選。現在、3期目。防衛大臣政務官(兼)内閣府大臣政務官等を歴任。

『おまえの罪を自白しろ』真保裕一 著 文藝春秋刊 定価:本体1,600円+税

真保裕一氏コメント

「『この世の中に、過去に罪を犯してこなかった人がいるんだろうか』と考えながら、この小説を書いていました。『自分がこんなふうに脅迫されたらきついなぁ』と思います」。著者が、これ以上の誘拐モノは書けない、と断言する傑作小説が誕生した。

おまえの罪を自白しろ

真保 裕一

文藝春秋

2019年4月12日 発売

「真保裕一の最新刊から読み解く、“できる政治家”の条件」――福田達夫インタビュー

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