「勃起」をしないのは、心臓や脳血管疾患への危険信号
「ほお」と唸ってパソコン上の映像から顔をあげてはみたものの、何がすごいのか判断がつかない。しかし、血流と精子の流れがわかったことが重要だと、永井教授は真顔で説明する。
「射精を繰り返す人は、定期的に血流を送り込むことによって、動脈硬化を防げるのではないか、という仮説が成り立ちます。実際、射精障害の人は血流が悪いのです」
陰茎の動脈は体内で最も細く、動脈硬化の影響は陰茎動脈から始まる。血管を強く保てずに衰えてしまい、陰茎に血が流れない。すなわち「勃起」をしないのは、心臓や脳血管疾患への危険信号なのである。
また、膀胱の筋肉に血液が行き渡らなくなると、尿がためられずに頻尿となる。これは動脈硬化や高血圧疾患の影響と見られ、夜間の就寝中に3回以上トイレに行く人は早死にするという研究結果がスウェーデンで発表されている。
「定期的にバイアグラ」アンチエイジングのための射精
「私はアンチエイジングのため、定期的にバイアグラやシアリスをサプリメント感覚で飲んでいます」
55歳の永井教授は、そう言う。彼が医師会の講演で訴えるのは、「射精のすすめ」である。勃起障害治療薬を使うことで、血管の若さを保つ血管内皮前駆細胞が増える。動脈を若返らせることによって、脳の記憶力、排尿、性機能に良い効果をもたらすという。
つまり、日常的に勃起させることが、限界年齢を延ばし、ひいては体の健康に結びつくという。これは体の「廃用性萎縮」に似ている。使わないと機能しなくなるという考え方だ。永井教授の机の引きだしには、バイアグラやシアリスといった錠剤がパラパラとしまいこんであった。
50歳から男は途端に老化する
しかし、日本人の男は、限界年齢を延ばすどころか、下げていると疑われるデータがある。札幌医科大学の熊本悦明名誉教授から提供された「わが国の寿命曲線の性差」というグラフだ。
日本人の平均寿命は、女性が男性より7歳長いことが知られている。男女差が7歳も離れている国は、世界でも珍しい。ところがグラフを見てわかるように、50歳までの男女差はあまりない。ところが50歳から80歳の間にだけ、男女の生存率に差が開く。そして80歳をすぎると、生存率の差が開くことがない。
つまり、50歳を過ぎた途端、老化現象が始まる男性がいることになる。東洋医学でいう腎虚である。