不必要な「傷」を負わせないことの大切さ
クラスメイトであった私たちが田村くんにそうしてしまったように、子どもは何も知らないがゆえに、「教室に居づらい子」を傷つけてしまうことがあります。
ただ、それを未然に防ぐため、学校側が小学生の子どもたちに彼らの存在を「理解してあげてね」と伝えることや、授業で彼らの存在をテーマとして取り扱うことが正しいのかというと、現時点で私には「YES」と断言する自信はありません。なぜならば、子どもたちがそうした知識を持つことで、「教室に居づらい子」がかえって「あの子は私たちと違うんだ」と認識されてしまい、いじめにつながる可能性もあるからです。
『発達障害』(文春新書)などの著書もある精神科医の岩波明さんに「こうした問題を解決するために何が必要か」とうかがったところ、2つの提言をいただきました。
「1つは、初等教育における学校システムを見直すことです。日本の画一的な教育に対して、オランダほか多くの国では現在20人前後の少人数クラスを作り、生徒への個別対応ができるよう配慮されています。
また、日本では『子どもを通常学級に通わせるか、特別学級や特別支援学校に通わせるか』の決定権が保護者にありますが、日本以外では精神科領域の専門的知識を有する人が子どもの状態や特性をチェックした上で、学校側に決定権を与えている国も多いです。このようなシステムを取り入れることで、先生の負担も減りますし、ひとりひとりの子どもに向き合い、変化に気が付きやすくなるメリットが得られます。クラス替えもほとんどメンバーが変わらないため、いじめがあまりないという報告もあるようです」
理解者を増やす努力を
日本では、小学校低学年は40人学級から35人学級に改善されたものの、OECD平均と比較するとクラスの規模や教員1人あたりの生徒数も多い状況にあります。また、学校だけの問題でもありません。
「2つ目は、こうした子どもたちに対しての社会の理解を進めることです。昔よりは偏見も減りましたし理解も進んでいますが、残念ながら、その理解や知識が学校で起きている問題の解決にうまく結びついていないのが現状です。
今は先生の負担も大変なようで、学校現場だけにいじめや不登校などの問題を押し付けるべきではありません。行政がしっかり問題に着目してシステムを作り変えたり、理解者を増やす努力をしたりする必要があるでしょう」
岩波さんがおっしゃるように、周りにいる大人たちが「理解者となり、SOSを出しやすい存在」となるだけでも、子どもたちが深刻な事態に陥る前に助けてあげることができるのではないでしょうか。既存のシステムや人々の認識を変えることは簡単なことではありません。しかし、私たちひとりひとりが意識して行動することで、「教室に居づらい子」が安心できる場所でのびのびと育ち、より豊かな人生を歩むことができるようになると思うのです。
田村くんが今どうしているかは知る由もありませんが、どうか彼が安心できる場所で、心穏やかに過ごせていることを、切に願っています。