大人になった今だからこそなのでしょうが、思い出すたびに胸が痛んでどうしようもなくなる思い出があります。

 小学生のとき、もう何年生の頃だったかも覚えていませんが、クラスに「田村くん」という男の子がいました。田村くんは普段とても無口で大人しく、なぜかいつもこわばったような顔をしていて、多分、私を含めてクラスメイトの誰も彼の笑顔を見たことがないような、そんな子でした。

遠足の日の朝、傘で何度も突かれた経験も

 休み時間になると男の子たちがこぞって運動場に走っていく中、田村くんだけは外にも行かず、誰かと話すこともなく、よく机に突っ伏していたのを覚えています。

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 そんな彼は時折、癇癪(かんしゃく)を起こして泣き叫びながら人を叩いたり、イスを振り回したりすることがありました。私自身も、遠足の日の朝、出発直前に突然暴れ出した田村くんに傘で何度も突かれた経験があります。子どもながらにとても怖かったですし、どうして彼がそんな風になってしまうのかが理解できず、ただ「この子は怖い子だ」と思って、それ以来彼には近寄らなくなってしまったのです。

 いつ癇癪を起こすか分からない田村くんは次第にみんなから避けられるようになり、そのうち「ヤベー奴」として認識され、彼をバカにしたり、面白がってからかう子たちも現れました。そういうことがあるたび、田村くんはまた「わあー」と大声を出して暴れ、周りの子どもたちは怖がり、からかっていた子たちは期待していた通りの行動を取った彼を見てゲラゲラと笑う。

今から考えると「どうなんだ」という対応ではあるものの

 今となっては面白がっていた子たちに対して「なんてひどいことを……」と思えるようになりましたが、当時子どもだった私たちにとって、田村くんは単なる「ヤベー奴」であり、そんなことがあっても「あの子、変わった子だから……」で終わらせてしまっていたのでした。

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 そして学校内で唯一の大人である先生たちはどうしていたかと言うと、田村くんが癇癪を起こすやいなや「こら! 何でそんなことするの!!」と怒鳴り、泣き叫ぶ彼を引っ張ってどこかに連れていくことが恒例でした。これまた今から考えると「どうなんだ」という対応ではあるものの、先生の立場としては他の子たちが怪我をすることも防がないといけないわけで、頭ごなしに「怒鳴ったり無理やり連れていくんじゃなくて、もっとじっくり時間をかけて、優しく諭してあげてくれ」とも言えないなあと思うわけです。