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主要メンバーが独立、こっそりデータを持ち出した

 新製品の機器が出る度、ドライバーを用意する。OSもウィンドウズ、マック、リナックスなど、それぞれ専用のドライバーが必要だ。決して絶えることがない仕事である。事実、会社は順調に離陸できたが、2001年、会社の主要メンバーが独立して競合会社をつくった上、退職時に一部の情報を持ち出し、また消去する事件が発生した。

 最初は訴訟することも考えたが、「これからは絶対持ち出されないことだ」と考えを変え、同社のデバイスドライバー技術を核とした情報漏洩対策ソフト「フォース・アイ」を自社制作した。これは記録媒体や紙へのデータ出力を禁止し、持ち出しを防ぐソフトで、情報の閲覧記録(ログ)も保存し、万が一の際の原因究明も容易にする。フォース・アイはサーバーに組み込まれるなど確実に市場の需要に応えた。

データ流出の経験を活かし独自のセキュリティー技術を開発 ©iStock.com

 2007年には情報漏洩防止機能を持つ「ノンコピー」も開発した。これは事前に登録したUSBメモリー以外では外部へのデータ保存ができない機能などを持ち、情報の外部持ち出しを不可能にする。こうした技術で開発責任者がマイクロソフトから表彰され、会社としても米国空軍科学研究所から特別賞を受賞するなど、独自のセキュリティー技術で世界に通用する会社へと育ったのだ。取得した特許は日本で19件、全世界で計48件を数える。

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 しかも創業以来、22年間1度も赤字に陥ったことがなく、事実上の無借金経営だ。2004年には売上高経常利益率25%を達成し、稲盛経営者賞も受賞した。現在資本金4000万円、従業員は正社員34人、パートを含めて50人と小さくまとまっている。小路社長は「レッツステップ」という書き込み式の小冊子を全社員に配っているが、そこには味読すべき言葉が記されている。

「クレームによって会社はつぶれないが、クレーム対策によっては、会社はつぶれる。クレームの発生に対して本人の責任を追及しないが、クレームの報告を怠った人へは処罰する」

「高給での人材の引き抜きは行わない。設備も人材も泥縄式対応を基本とする」

 実践的で地に足がついた経営であり、社員教育である。優れた技術力と経営力をどこで手に入れたか、キツネにつままれた気がするのは筆者ばかりではあるまい。

(初出:月刊『ウェッジ』2016年2月号)