実は晩餐会が終わって皇居を辞すとき、皇后は優しくヴァレリーさんを抱擁し、頬ずりをしたが、彼女はフランスのメディアから「(両陛下の体に触れてはならないという)儀礼を破った大統領のパートナー」との批判を浴びるのを覚悟したという。批判は起きなかったが、それほど鵜の目鷹の目で見つめているフランスのジャーナリストを気にしていたのだ。
皇后との会話や、皇后から優しくかけられた言葉、またエリゼ宮にはない静かなたたずまいの中での接遇は、バッシングを受けてきたヴァレリーさんには心に染みるものではなかっただろうか。自著の締めくくりのところで日本訪問を最も素晴らしいものだったとし、「天皇、皇后両陛下のおもてなしは魂を奪われるような思い出としていまも残っています」との表現に、溢れ出るものを感じるのだ。
天皇になる前、最後の訪問先にフランスを選んだ
オランド大統領の対日政策の転換を引き継ぐマクロン大統領は、さらに踏み込んで日仏両国の政治、経済、安全保障面での協力強化へ動いている。特に安全保障面では、威圧的な海洋進出を続ける中国を念頭に仏艦船と海上自衛隊、仏空軍と航空自衛隊の共同訓練が行われている。「日仏がこれほど良好な関係にあるのはかつてない」と言われる。
しかしそれとは別に、天皇とマクロン大統領の出会いも興味深い。天皇は皇太子として昨年9月、8日間にわたりフランスを訪問し、最後はヴェルサイユ宮殿でマクロン大統領夫妻が晩餐会でもてなした。天皇になる前、最後の訪問先にフランスを選んだことに、フランス側も感謝をもって応えたのだ。そういう意味では、天皇とマクロン大統領夫妻は初対面の挨拶は抜きにして、深い話を交わされるだろう。また文学や演劇に通じたブリジット夫人が皇居の雰囲気から何を感得するか興味深い。