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きっかけは「店に持ち込まれた弱ったハヤブサ」 ペットショップの社員が“鷹匠”になるまで

『さらば! サラリーマン 脱サラ40人の成功例』吉田剛之さんのケース

2019/06/30
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鳥害に1番苦しんでいたのは工場だった

 T社ではいつの間にか中間管理職になり、生き物から離れて、数字や人間関係の調整にばかり神経を使っていた。そういう会社勤めにも魅力を感じなくなってきていた。

 2013年、吉田さんは40歳で会社を辞め、鷹丸を起業した。当初は寺社や公園などからハトの駆除を依頼されるのではないかと踏んでいたが、いざフタを開けると、寺社や公園などからの発注はゼロ。工場からの依頼が圧倒的に多かった。鳥害に1番苦しんでいたのは稼働している工場だったのだ。

 たとえば工場で午前中3時間ほど鷹を飛ばす。料金は3万円ほどである。だが、実際には長期契約が多い。初月は5日間、各日3時間ほど鷹を飛ばす。その後は月2回ほど鷹を飛ばし、害鳥たちにここは鷹の縄張りなのだと周知徹底させる。1カ月の料金がおおよそ30万円。だいたい3カ月から6カ月もやれば、害鳥たちは寄りつかなくなるらしい。

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「最初に鷹を見咎め、警戒の声を発するのはカラスです。が、鷹はカラスなどにはびびらない。自分の体重の3倍までの鳥獣なら襲えます。悠然と飛び、要所、要所に止まっては辺りを睥睨する。これで害鳥たちはここは鷹の縄張りになったと悟り、先を争って外に逃げ出していく。

 工場で鷹にとって危ないのはガラス窓への激突ですが、人一人がずーっとついていますから、そうそう事故は起こさせない」

 鷹で害鳥駆除を手掛ける業者は全国で五軒ほどらしい。数が少ないから、吉田さんも石川、富山、福井などの北陸方面と三重、愛知、新潟などをカバーしている。現場までの移動に時間がかかるが、雉ならぬ鷹を連れた桃太郎のようなもの。気楽なところがなによりいい。

(初出:月刊『ウェッジ』2018年1月号)

きっかけは「店に持ち込まれた弱ったハヤブサ」 ペットショップの社員が“鷹匠”になるまで

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