男は「顔と身体」、女は「背景」を見る――AV実験のリアル
具体的にいうと、20人ほどの男性グループに、「レジスキャン」という輪ゴムのような2つのリングを、ペニスの先端と根っこの部分につける。約30秒ごとに輪がキュッと締まり、ペニスの太さと硬度が計測できるものだ。
彼らにアダルトビデオを見てもらい、どの部位を見ているか、視線を追跡する装置を考案。男女それぞれの被験者グループにビデオを見せた。
「男は、女優の顔と身体を見て、男優を見ている男はほぼゼロです。女性も圧倒的に女優を見るのですが、男優も見ているし、背景も見ている。男女で見る興味が違うのです」
ちなみに、男女ともに、男優と女優の局部を見ている人は少ない。
そして、レジスキャンで勃起の状態を計測しながら、その興奮時に脳のどの部分が活性化していくかをリアルタイムで撮影した。
まず、性欲のスイッチが入る「興奮期」。
「性的刺激でドキドキする勃起の初期段階である興奮期に、後頭葉が活性化され、さらに小脳虫部の一部が特異的に活性化することがわかりました」
この時、脳はビデオの音にも反応して、聴覚野も活性化する。
次にオーガズムまでの助走「プラトー期(高原期)」。尿道からカウパー腺液を出して、尿道の残留物を洗い流すこの時間に、ビデオの音に反応していた脳の聴覚野である側頭葉が、興奮期よりもさらに活性化された。
「ビデオを見続けていくうちに小脳の活性は落ち、腹側線条体など別の場所に活性が移っていくことがわかりました。この腹側線条体が性欲中枢の一端を担っていることが、PET撮影で明かになったのです」
そして絶頂期(オーガズム期)に入った瞬間、男は射精する。
こうした脳の性的メカニズムが科学的に解明されたのは初めてのことである。
「社会的内向性が高いと性欲が落ちる」の衝撃
男性ホルモンが低下していると、性欲中枢は活性化されず、男性ホルモンを補充すると活性化が戻る。
さらに性的興味の範囲がわかると、精神科で用いられる「ミネソタ多面人格目録」なるテストを行い、性的関心と人格の相関性を解析した。これは約550の質問で人格を分析していくものである。
その結果、最も特徴的だったのが、「社会的内向性」の度合いが高い人ほど、女性の裸を注視していないという事実だった。
辻村氏が話す。
「まあ、当たり前といえば、当たり前のことです。内向的な人ほど、ビデオを見ても目を伏せる。例えば、仕事でストレスがたまって内向度合いが強まると、目の前を裸の女性が歩いても関心が持てないでしょう。性欲の低下が科学的な数値で証明されたということです。また、EDが性的なものに興味を失って勃起しないのか、あるいは別の理由なのか、原因を見極めることに役立つと思います」
社会的内向性が高いと性欲が落ちるという検証結果は、実は衝撃的ではないだろうか。冒頭で紹介した「セックスへの無関心、嫌悪」の割合が、若年層を中心に幅広い世代で増加している事実は、逆に日本人の社会的内向性が高まっている現れと読めるからだ。
内向性が高い人が増える社会とは、一体、どのような社会なのだろうか。日本の将来を占う意味で、非常に興味深い。